横断歩道から見守る
ぶり大根
おじいさんの日課
夏の日差しが燦々と輝いている
どこかでセミの声が聞こえてくる
太陽の熱をアスファルトが反射して余計熱さを感じる
空は雲ひとつない快晴だった
おじいさんは横断歩道の近くに立つ電柱を影にしてそっとあたりを見ていた
どこかへふらふらしたり公園で涼をとるのも好きだがこの横断歩道を見ているのがおじいさんは好きだった
正確には横断歩道を歩いてる人を見ているのが好きなのだ
朝は、通勤途中なのだろう携帯で話をしながら歩いていくサラリーマン
急ぎ足で歩いていくOL、追いかけっ子をしながら学校へと向かう小学生たち
夜になると、疲れた顔をしながらも一歩一歩踏みしめるように帰っていくサラリーマン達
泥だろけになりながら、疲れを知らない子供達がお腹を空かせて、帰路へ足を進める
そんな人々の日常を見れるこの横断歩道がおじいさんにとって一番の日課と言っていいだろう
さて、今日も朝から人々の出発を見送ろうかと思ったときおじいさんに話しかける声があった
「ねぇおじいさん、おじいさんなにしてるの?」
話しかけてきたのはおさげの少女だった
この近くの小学校の生徒なのだろう、背中にはまだツヤが残る真っ赤なランドセルを背負っていた
おじいさんは驚いた、話しかけられるとは思ってもいなかった
すっと目を閉じた
意味を悟ったからだ
おじいさんは少女へ向けてにこりと笑った
「私も、一緒にいていい?」
勿論さ そっと頭を撫でてやる
「私ね、うーん上手く言えないんだけど何か忘れて
るような気がするの
それが思い出せるまで一緒にいてくれると嬉しい
な」
胸が痛くなるほど眩しく少女は笑いかけてくる
あぁいいともさ、わたしが君の相手をしてやろう
願わくば君が辛いことを思い出さないように
電柱の側に置かれていた花束が風に吹かれそっと揺れた
横断歩道から見守る ぶり大根 @buridaikon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます