第6話負けられない戦いがあるんです
「さっちゃーん。リレー、コーラス部から出てよ」
その日、線路の横の脇道をさっちゃんとリレー対策をしながら歩いて帰った。
「あのね。女子サッカーは去年、準優勝だったの。優勝を狙っているのに、私が他の部から出るなんて許されないの」
さっちゃんは女子サッカー部の中で、一番足が速い。ハンデのドリブルしながら走るという条件を付け加えたら、さらに誰より速いのだという。しかも部長だ。コーラス部のリレーの選手にはどうしたってなれない。
「じゃあ、卓球部の松阪先輩と野球部の小田君に聞いてみるよ。ところでさ、二宮先輩って足は速いの?」
「全然……。それよりさ、たっちゃん、なんで二宮先輩のためにそんなに怒ったの? そりゃあ、結果はどっちかと言えば、まあ変な事になっちゃったけど」
「 さっちゃん、二宮先輩が好きだろ?」
「うん」
バシッとボティブローがくる。でも倒れる訳にはいかない。
「二宮先輩、俺も好きだから」
(それに、さっちゃんが好きなものは全部、守りたいんだ)
心の中で、さっちゃんに言う。
二宮先輩が三木先輩を好きな事に気がついて傷ついているさっちゃんに、つけ込むような事はしたくない。
だから言わない。
まっさらなままのさっちゃんで、好きになって欲しいんだ。
「そっかあ」
俺のそんな気持ちにはおかまいなしに、さっちゃんは笑った。
「私は無理だけど、リレーのメンバーに入っていない子に、私からも頼んでみるよ。でも安心して。私もオタ芸、一緒にやるから!」
達哉を見るさっちゃんの目は、キラキラしていた。
もしかして……? 達哉は、さっちゃんはオタ芸をやるのを楽しみにしているのかもしれないという考えは封印した。さっちゃんの希望を叶えてあげたいのは山々だが、男には負けられない戦いがあるのだから。
次の日、負けたらボウズでオタ芸という陸上部とコーラス部の勝負は学校中に広まっていた。そのおかげで他の運動部から同情され、リレーの選手は運動部と掛け持ちの部員からすんなり決まった。
とはいえ相手は陸上部だ。いくらスパイク禁止、第一走者がハードルで、第二走者が砲丸を抱えたまま。第三走者が三段跳びの繰り返しだとしても、第四走者が最後の一周を普通に走る限り、コーラス部が勝てる見込みはなさそうだった。
コーラス部はただ普通に走るだけなのだが、アンカーが部長の二宮先輩と決められている。二宮先輩の全速力は、達哉にはジョギングをしているようにしか見えなかった。
昼休み、コーラス部はいつもの曲の終わりに、必ずオタ芸の練習をするようになった。オタ芸が部内一、似合わない三木先輩ですら乱れる髪も気にせず練習し、完璧に踊れるようになった。しかしただ一人、二宮先輩だけは練習しても、うまく踊れるようにならなかった。リズムは取れているのだが体の動きが付いていかず、テンポがズレてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます