ダーティーホワイトエルブズ ~現代に転移して魔物退治人となった魔力ゼロのエルフは誓う。クズ野郎で転生チートスキル【主人公属性】を持つ弟に死を、と~
第98話 ─ ホワット・ア・ワンダフル・ワールド ─…ある男の独白
第98話 ─ ホワット・ア・ワンダフル・ワールド ─…ある男の独白
「話は聞かせて貰ったわ。その話、私達も乗らせてもらう」
声のした方へ顔を向けると、部屋の玄関にマルゴとアマローネの二人が立っていた。
二人は狭い俺様の部屋に、無遠慮にズカズカ入って来る。
「SNSで下町の騒ぎを知ったんだけど、あそこ、スマホ持ってる人が少ないでしょ?
そう言いながら部屋の隅に移動して、当たり前のように立つアマローネとマルゴ。
アマローネは腰に手を当て、こちらをジロジロ見ながら独り言ちる。
「ふーん。マルゴをお持ち帰りした時、別人みたいだと思ったけど、本当に別人だったとはね」
「別人でもあり、本人でもあるのが、我ながらちょっとややこしい状況でね。……おい、マロニー!」
そう言って強引に代わる相棒。
表に出た俺様は、バツの悪い思いでとりあえず皆に挨拶した。
「あー……。皆さんコンニチワ、はじめましてマロニーです……」
「何を馬鹿な事言ってんのよ、マロニー! 凄いわね、見た目は全然変わってないのに、マロニーにしか思えない」
「えーと、一応本人なので……」
「ふーん、まぁ良いわ。私達もその生贄ってやつになってあげる。……いえ、ならせて」
それを聞いて俺様も相棒のように慌てる。
アマローネに焦って叫んだ。
「いや! いやいや! そこのマルゴって女の事情は聞いたから、まだ分からなくもねぇけど、オメエが生贄とか訳わかんねえよアマローネ!?」
だがアマローネは、静かに俺様に告げた。
「
「な……オメエ、知っちまったのか!?」
「マルゴから聞いたわ」
アマローネは、カリラと同じ
腕組みをして、他人の意見を断固拒絶する態度で。
「
そしてアマローネもまた、さっきのカリラと同じように、大きく口を開けて歯を剥き出して食いしばる。
「私をあんなに苦労して育ててくれたアマレット
俺様は無駄だと知りつつも、アマローネを
「アマレットは、オメエが死んでまで仇を取ってもらう事を望んじゃ……」
「あの二人が、のうのうと生きているのを見ながら生きていくのが、幸せとは思わないわ、私」
「アマレットの仇を取って、高笑いしながら生きて行くってのも……」
「私は、それなりに生きたいように生きてきた。死ぬ時も、死にたいように死ぬわ」
それを聞いて、俺様の奥で相棒は考え込む。
俺様も天井を振り仰いだ後、三人の女達にこう言った。
「すまねえ。ちょっと外をぶらついて、考えをまとめてくる」
*****
日が
俺様は、破壊された下町に来ていた。
その瓦礫の影で、行く当ての無い人々が
俺様はその中の薄汚れた若い男が、ぼんやりと街の上流層向けの繁華街を見ている事に気がついた。
煌めくネオン。微かに聞こえる、雑踏のざわめき。
同じ街なのに、あまりにも遠いその光景。
だがコイツ等に何もできない俺様は、
騒々しい人混み。明るい足元。灯り一つ無い下町とは別世界だ。
身なりの良いスーツに身を包んだ、金の匂いを撒き散らす男。それに群がる女達。
その女の中には、昼間のガールズトークと称した井戸端会議で、男なんて、如何わしい繁華街なんて、と罵詈雑言の限りを尽くしていた者が何人も居た。
と、通りすがりの誰かに肩をぶつけられて、思わずよろめく。
見ると高そうな毛皮に身を包んだ女が、汚物を見る目で俺様を睨みつける。
コイツは以前、動物愛護で毛皮のコートを着ることに反対していた女ではなかったか?
今度は後ろから蹴り付けられた。
振り返ると、これまた女を引き連れた男が、
「邪魔だ。どけ」
そう言ってから俺様に唾を吐き捨てる男。
俺様は唾を拭うと立ち上がり、埃を払って歩き出す。
払った埃に顔をしかめる周囲の人々。
シャーロットの家がある、高級住宅街まで来た。
さすがに表は街灯以外に灯りは無いが、あちこちの家の窓から明るい光が漏れている。
シャーロットの家の前まで来ると、彼女の声が聞こえてきた。このエルフの身体でなければ聞こえなかった声。
ふと気配を消すと、何となく家の敷地に侵入する。簡易な警報しか取り付けていないから、回避も大したことは無い。
明かりの漏れる窓のそばに近寄り、聞き耳を立てる。
「……そうなのよ、ミトラったらすっかり鼻の下を伸ばしてさ。『俺の身体が忘れられなかったんだな』って。バカよねー!」
どうやら電話で会話しているらしい。
シャーロットは、メールやチャットよりも電話派か。
「……うん。……うん。そうそう、あの炎の女。そそ、アイラ。それをこれ見よがしに出してよ。『こうすると男を寝取った感じがして燃えるだろ』って」
相棒が俺様の奥で、ざわりと怒りを起き上がらせる。
俺様は胸の内で相棒をなだめながら聞き続ける。
「そうなのよ。あの人の……ボスの子供が出来たと分かった時は、どうしよかと思ったけど。これでミトラに……うんそう。明日辺りに、アンタの子供よって言ってやるつもり」
俺様は聞きながら目を閉じた。
こんな浅ましい人間が、平然と笑って暮らしている現実に
「……そうね。これを機会にミトラに
話にウンザリした俺様はその場を離れた。
ぼんやりとしていた自分の気持ちが、今はハッキリしているのを感じる。
俺様は自分のアパートに戻ることにした。
帰宅途中に、ミトラの事務所の前を通りがかる。
入り口に炎でできた人型が立っていた。
ミトラは女を抱く時だけ、この炎の人型を出すのを俺様は知っている。
そしてそれが、外敵から身を守るための警報だという事も。
敵意を持つ者がやって来たら、この人型が自動で敵を迎撃するのだ。
“ミトラの奴、また事務所に女を連れ込んでいるのか”
相棒が人型に意識を向けながら、そう思考する。
近寄ると案の定、中からミトラの声と女の声が聞こえてきた。
この街には水商売女は居ない。
つまり、どこぞの女が不貞を働いているという事だ。
浮気をする男は最低だが、女はどうなのだろう。最近は特に騒がれない気がするな。
女の多いこの街に身体を売る女は居ない。
だが男に貢いだり等で、金で身を持ち崩す人間がいるのは女も共通だ。
だが男なら肉体労働の道があるが、身体を売る事が出来なくなった落ちぶれ女が、この街でどう借金返済するのか。
シャーロットの団体とフェミニスト系を標榜している団体が
己に絶対服従の兵隊にする為に。
そんな彼女達は、生贄に捧げられると知っても動く事はできまい。
しかし、事務所の中からの声に構わず俺様は、炎の人型に近づき目の前で立ち止まる。
そして相棒に主導権を明け渡した。
「アイラ……」
相棒が炎の人型に呼びかける。
人型が揺らめき、こちらを向いたように見えたのは、俺様は錯覚だと思う。
だけど、それを伝えるヤボはしない。
相棒は人型に手を伸ばす。
手のひらにジリジリとした熱さが伝わる。
やがて相棒は手を引っ込めると、その手を握り締めた。
そして決意を込めて歩き出す。
一度だけ、炎の人型を振り返った。
そうだな、もう悩むべき時も迷うべき時もすでに俺様達には過ぎ去っていた。
あとは腹を決めるだけだ。
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