第37話 ─ ハイウェイ・トゥ・ザ・デンジャーゾーン ─その2…ある男の独白

 前方の車が観念したように急停車。

 まぁ車が爆発したら、護衛はともかくボスが無事じゃ済まないからだろう。


 潰してきた護衛の車に負けないぐらい厳つい車から黒スーツの三人が降りてきた。

 よく見ると、その影に器用に隠れて奴らのボスも。


 俺達もエヴァンがオープンカーを急停車させて、三人とも降り立ち相対する。

 アイラが投げナイフをあちこちに投擲し、何かを念じると周囲に結界が張られた。

 地脈が強いポイントなんだろうな、かなり強力な結界に仕上がっている。

 これで向こうの護衛の力は、結構抑えられてるはずだ。


 地脈の強いポイントは悪魔憑きの能力も上がるが、こちらの退魔の力も上がる諸刃の剣だ。

 我も危険ならば彼も危険。

 向こうとしては賭けに出たつもりだったのだろう。


 “騎士団”の結界術を知らずに、無邪気に悪魔の力を使っていたなら、確かに俺達の邪魔になる敵だ。遠慮は無用だな。



 向こうの護衛のうち二人がこちらへ突っ込んでくる。動きからして人狼ワーウルフかドーピング野郎か。


 エヴァンも俺が返却した退魔銃を懐に入れると、退魔能力を施したメリケンサックを両手に突っ込んでいく。

 一人は俺がヘッドショットで仕留め、もう一人はエヴァンに懐に入られてボコボコに殴られていた。

 あっという間に殴り倒されて動かなくなる護衛。

 向こうも、コレを含めての仕事だ。特に何も感じる事はない。


 奥に控えていた最後の護衛が、肘を曲げて力を入れると体が膨れ上がり、ミチミチと音を立てて上半身の服が破けさった。

 見たところオーガ憑きか?


 エヴァンがこちらを向いて親指を立て、ニヤリと笑って歯をキラリと光らせる。

 そしてそのまま最後の護衛に、続けて突っ込んでいった。


 おい、あの顔のアイツは大抵ロクでもない事を考えてるんだが。



 最初は、ヤツは危なげなく護衛の攻撃を掻い潜り、ボディに攻撃を加えていた。

 しかし、一瞬こちらをチラッと見ると、護衛が繰り出した大振りの一撃テレフォンパンチに派手に当たった。

 そして不自然にこちらに大きく飛ばされて倒れこむ。


「うわーやーらーれーたー!」


 めっちゃ棒読みやんけ!

 お前、自分から後ろに飛んでダメージ殺してるだろ! 向こうの護衛まで不思議そうに自分の手を眺めてるわ!


「リーダー、俺はアイツに殴られてくるぶしツヤツヤ病が発症してしまいました! かくなる上は、リーダーがチャチャッとあいつを倒して、俺とアイラちゃんに良い所見せて下さい!」


「アホかお前は! 殴られてすぐに発症する程の虚弱体質がオープンカーで爆走すんな!」


 そう言って俺は、オーガ憑きに銃を向けた。疲れるので病名へはツッコんでやらん。

 するとエヴァンがワザとらしく苦しみだす。


「ううーっ。リーダーの華麗な接近戦をアイラちゃんに見せないと、持病の踝ツヤツヤ病が悪化してしまうー!」


「え?」


「はぁ、色々と注文の多いヤツだ」


 というか、殴られて病気になったんと違うんか!?

 いつの間に持病に切り替わってんだよ。

 というか俺とアイラをくっつけようとしてるのかよ。何でその気もない俺となんだよ。

 あれか? シラノ・ドなんとかを気取りたいのかよ。むしろもう一人のクリスチャンの方だよお前はよ。

 はぁ、俺はもう疲れるよ。

 YO! YO! とか言って現実逃避したいよ。


 そんな風に馬鹿な事を考えながら、俺は疲れた顔で鬼憑きに近づく。

 退魔剣を腰から抜いて、無造作に。


 エヴァンより一回り小柄な俺を見て、組み易しと見たのか鬼憑きはニヤリと笑う。

 そして素早いジャブを繰り出してきた。


 なかなかの速さだ。だが、転移前に戦ったアイツ程じゃない。パワーもタフネスもな。


 俺は、鬼憑きの護衛のジャブを避けて懐に入る。

 同時に、ヤツの手首を剣で斬り上げて切断、振り下ろして肘を切断。

 そして剣を振り下ろす勢いそのままに、踏み出していた護衛の膝を斬りつけた。


 膝を深く斬りつけられた護衛はガクリと体勢を崩す。相手の首筋が大きく下がった。

 そこを目がけて俺はヤツの喉笛を貫く。

 刺さったあと、捻って抉ると退魔剣を引き抜いた。

 そして剣をひと振り、血を飛ばす。


 護衛はヒューヒューと喉から金切り音を出して倒れると、喉を掻きむしってから事切れた。



 俺は引き続き、地面にへたり込んだボスに歩み寄る。

 ヤツは真っ青な顔で俺に懇願。スーツの懐に手を入れながら、後ずさる。


「ま、待て。金なら……」


 バチリと俺は電撃をボスの手に浴びせる。懐に入れていた手がダラリと下がる。

 ヤツが手にしていたのは、黒光りする拳銃。


流石さすがだな、よくぞ気付いた”


 電撃のショックで地面に転がるボス。

 俺はため息を一つつくと、倒れたボスの胸に剣を突き立てた。


 コイツ悪魔憑いてるかな? 念のために送還かけとくか。


 そう思って俺は聖水を取り出すと、魔法陣を描いた。


「カッコいい! さすがリーダー、アイラちゃんのハートも鷲掴みだぜ!」


 疲れる。無視だ。

 というか、護衛の悪魔憑きの死体もサッサと魔法陣描いて送還しろよ。


 俺はいつものようにスマホを取り出し、呪文を再生。


「“よこしまなる悪魔よ……”」



 全てが終わった時、アイラがスマホで誰かと話していた。

 話し口調から、多分ベイゼルだな。


「はい……。はい……。ええっまたですか? はい……。はい……。分かりました、伝えておきます」


 うわ、嫌な予感。


「リーダー、帰還したらベイゼルさんへの報告は私達に任せて、代理代行の元へ出頭してくれ……だそうです」


 支部統括代理代行。シャーロット・ポート。やっぱりね。


 YO! YO! とか言って現実逃避したいよ、俺は。

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