第36話 ─ ハイウェイ・トゥ・ザ・デンジャーゾーン ─その1…ある男の独白

「エヴァン、前方に二台、後方に一台。お前の退魔銃えものを貸せ。運転は任せた」


「ほらよ。落っことしたらランチを一年奢るぐらいじゃ済まないぜ」


 俺は隣のサングラスをかけたエヴァンから退魔銃を受け取ると、弾数のチェックと動作不良が無いかの簡単な点検を行う。

 そして自分の銃と合わせて両手に拳銃を持つと、オープンカーの右の助手席に仁王立ちになって、前方に銃口を向けた。

 そして後部座席に向けて叫ぶ。


「アイラ!」


「……後ろは任せて!」


 そう言って彼女は、後部座席で立ち上がって後ろを向くと、座席の背もたれに片足をかける。戦闘用僧衣の裾がはためいている。

 そしておもむろに、俺が軍の放出品から手に入れたロケットランチャーM72を肩に担いで、後ろのいかつい自動車に狙いを付けた。


 アイラのその姿をバックミラーで確認したエヴァンが、ヒュウと口笛を鳴らす。


「アイラちゃんカッコいい! 惚れ直しちゃうね!」


「……気が散る。黙って運転に集中して」


 俺もエヴァンにひと睨みすると、前方の車に向けて銃を発砲。アイラもほぼ同時にロケットランチャーを発射。


……ああ、必死に晩飯を抜いて金貯めて買った、軍の放出品のロケットランチャー……。

 あれ使い捨てタイプなんだよな……今度は弾を込めなおせるタイプを買おう(泣)


「ヘイヘイ、涙で手元が狂ったらダメだぜリーダー!」


「うるせえ!」


 初速の遅いロケット弾が、あらぬ方向に飛んでいったように見えたが、後ろの自動車がまるで弾に吸い寄せられるように移動した。

 そのまま弾に当たって、厳つい自動車は爆発四散。


 俺が前方の車に向けて何発か撃った弾も、バックガラスを粉砕した後、乗っていたならず者共全員の頭を撃ち抜いた。

 コントロールを失った自動車がこちらに近づいてきたが、エヴァンが器用に避ける。車はあっという間に後ろに飛んでいった。

 高速道路のどこかにぶつかったのか、爆発音がもう一つ。


「相変わらず二人ともスゲえ腕前だな、まるで魔法だ。やっぱり弓が得意なエルフだからか? 飛び道具の扱いが上手いのは」


「弓とか関係ねえよ。相手をよく見て動きを先読みしたら、誰でも出来る。簡単な事だ」


「そうね」


「いやちょっと待って!? そんなチョップスティックでハエをつまめたら誰でも出来るぞ、みたいな無茶理論!?」


 そう言ってる間にも、前方のもう一台の車から乗員が身を乗り出して銃を撃ってくるが、エヴァンは危なげなく避けていく。

 俺は身を乗り出した奴らの頭を一発ずつ撃ち抜いた。


「抜かせ。こいつらの弾に一発も当たらずに車を運転してるお前が言う事か」


 空になった弾倉を足元に落として、次の弾倉を二丁共にセット。


「俺のは死にものぐるいで磨いた危機察知感覚のおかげだよ! お前ら変態二人と一緒にすんな!」


「変態だなんて酷いエヴァンさん……」


 左手で目を覆って、よよよと泣き崩れるアイラ。

 涙出てねーから演技なのバレバレだよ。


 まあ良い事だけどな、最初の引っ込み思案なのに比べたら。


「い、いや俺ッチはそういうつもりで言ったんじゃなくて……」


 騙される馬鹿発見。惚れた弱味だな。

……いや待てよ、これがフェットだったらどうだ?


“私の事を変態だなんて酷いわ! シクシク……”


 うむ、速攻で騙される自信がある!

 むしろ積極的に騙されにいく!!

 よしエヴァン、俺はお前を赦そう。


 ただし、俯いたアイラが一瞬ペロっと舌を出したの、俺は見逃さなかったぞ。



……と、前方の車が僅かに減速してこちらの左手に付ける。

 その瞬間、俺は左に向き直って銃を連射。

 開けかけていた向こうの車のパワーウィンドウが砕け散って、助手席の男と運転手を仕留めた。


「うるっせええ! 目の前で撃つな! 畜生、耳がキーンってなってるぜ」


 しかし俺は特に反応せずに助手席に再び座る。

 どうせ耳鳴り程度で運転に支障が出る男ではない。


「いよっしゃあああ! ようやく追い付いたぜえ! ……しかし今回は後始末の連中に大目玉食らうな、これは!」


「普段は俺達の現場では楽させてやってるんだ、タマには恩を返してもらうさ」


 多分まだ耳鳴りがしているエヴァンには聞こえてないだろうが、構わず俺はそう返した。



*****



「君達の実力を見込んで“仕事”を与える」


 そう言ったのは、俺がこの世界に来たばかりの時に面接した優男、ベイゼル・ヘイデン。


 あれから一年か二年ほど過ぎただろうか。

 俺達のチームは“騎士団”内でかなり上位の実力を身に付けられたようだった。

 他のチームの実力を知る機会が少ないから、推測もかなり入っているが。


 ベイゼルの俺への面接はむしろ突発的な仕事らしく、普段はこうやって各チームに“仕事”を割り振ったり裏方の事務をしたりといった役をしている。


 考えてみたらそうだよな。そんなにしょっちゅう異世界からの来訪者がいたら、大混乱だ。



*****



「ふぇっクショーン!」


「くしゅん!」


「ズズッ、フェットチーネさん風邪ですか?」


「いえ大丈夫ですクラムさん。何か急に鼻がムズムズして……」



*****



 ベイゼルが“仕事”の内容を話し始める。


「EUの某所に自称独立国がある。そこに巣食う、我々への敵対組織を殲滅して貰いたい。君達に行って貰うからには、悪魔を使う連中だ」


 そう俺達に“仕事”を告げるベイゼル。

 その内容に質問するアイラ。


「自称独立国……ISみたいなものですか? でもそんなの聞いたことが無いですが」


「小さい上に、国際社会にアピール出来る資源も無い地域だからな。埋没しているのさ。しかし、そんな非合法な“国”だからこそ、不穏な裏の連中が流れ込んでくる」


「俺達三人で組織を殲滅って、無茶じゃないッスかぁ?」


 よし、よくぞ言ったエヴァン。こんなのバックアップ万全でもキッツイぞ。


「すでにいくつかのチームが周辺国と協力して、組織をかなり削っている。君達には主に頭を潰して欲しいのだ」


「そこまで削れてるんなら、最後まで任せましょうよぉ〜。面倒くさぁ〜」


「ボスの護衛の悪魔憑き共が強力なんだ」


「それならば仕方ない、といった所ですね」


「ええ〜。やる気出さないでよ、アイラちゃ〜ん」


 お前そういう所だぞ、アイラにモーションかけてもイマイチ反応薄いのは。

 俺は最後に、ベイゼルに自分の疑問──半分くらいは確認だ──をぶつけた。


「悪魔使いの敵対組織……。例の連中の可能性は高くないのか? 潰して良かったのか?」


「“我々への”敵対組織だ。潰せ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る