第10話 開戦阻止へ

 直人は自分の胸元にアジュガを入れて愛車にまたがる。後ろのシートには、スイレンを身体に縛りつけた上から抱きしめた結が乗った。

 アジュガの翻訳機をアリスとリンクさせ、耳元に装着したワイヤレスイヤホンで、直接アジュガの声が直人に聞こえるようにして、バイクを発進させた。


『ノアは、直人さんたちが海側ダスマーに敗北した場合、陸側ランドの人々の怒りをあおり、戦争の火種にするつもりだったのでしょう。

 恐らく、ノアの協力者は陸側ランドにもいるはずです。キリシマの探索ルートを事前に知ることができる人物です。だからこそ、ノアはキリシマをターゲットにした』


「確かに、探索ルートの情報がどこからか漏れている可能性はあったんだ。その情報がノアに流れてたってことか」


『はい。そして、ノアが火種に選んだ。海側ダスマーの、エヴァナブルグの資源管理局への敵対意識を、ノアはあおったわけです。

 戦争の理由のひとつとなっている資源管理局が、謝罪を表明して和平への強い意思を表明したら、あるいは、解決の糸口が見えるかもしれません』


「それで、資源管理局か。ともかく、班長に会おう」


 直人はそう言うと、速度を上げた。



 資源管理局に向かう道中、エヴァナブルグの街はすっかり混乱に陥っていた。


 深夜の非常事態に、表通りは警官に誘導されて避難する人々でごった返していた。

 恐らくは、自然災害を想定したシェルターへ移動しているのだろうが、怒号や悲鳴が響き渡って、警官たちも右往左往しているような有様だった。


 直人たちは、ゴーストタウンのようになったパレード会場を走りぬけた。

 焼けただれたバスも、あれほど賑わっていた屋台や商業施設も全て放棄され、不気味なほど静まり返っていた。

 行政区画は物々しい雰囲気になっていて、入り口は封鎖されていた。

 直人は、キリシマのパイロットということで、知っているものからは微妙な扱いを受けそうではあるが、入ることはできるだろう。

 だが。

 結とスイレンとアジュガは、すんなりとは入れないだろう。


 封鎖された関門の周囲には、 当然ながら武装した軍人が立っている。


 どうしたものかと直人が考えるより早く、軍人たちがそれぞれ耳元のイヤホンに触れて、顔を見合わせて、一人を残して走り去っていった。


「ん? どうしたんだ?」

「彼らの端末のAI――私の姉妹たちに偽情報を流しました。すぐに気付かれます。マスターは結さんを爆破事件の犯人らしき人物を目撃した証人と偽って入ってください。班長には話してあると言えば、彼は通してくれるでしょう。アジュガさんとスイレン様は結さんとバイクの陰にどうにかしがみついて通過してください」


 アリスが早口で言った。


「偽情報って、お前……!」

「行こう! 直人!」


 アリスのまさかの行動に驚く直人の背を、結が押した。


 一人残った軍人を見て、直人はアリスの言う「彼は通してくれる」という言葉の意味が解った。直人の同期で親しい間柄だった。彼なら直人を疑うことはしないだろう。



 直人は友人に申し訳なく思いながらも、アリスの作戦を決行した。



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