風車が止まるまで

春風月葉

風車が止まるまで

 カラカラ、浴衣の帯に挟まれた風車が風もないのに回っている。

 面妖なものだと風車の持ち主であるペアの彼女は笑っているが、それに同意する私の笑みは引きつっていた。

 私は嫌だったのだ、肝試しなんて。

 全ては今年の夏もじめじめとして暑いのが悪いのだ。

 肝試しで涼しくなるなんて迷信なのに、どうして私がこんな目に。

 深く溜め息を吐く私の隣で彼女はケラケラと笑っている。

 夜の墓地というのは不気味なもので、木々の踊る音、風の走る音、小さな音にも私は敏感に反応した。

 不意に美しい草笛の音色が耳に入り、私はビクリと顔を上げた。

 奏者はペアの彼女だった。

 彼女の腰に刺してある風車はカラカラカラカラと草笛に合わせて回っている。

 先程までは暗く、月明かりも入ってこなかった墓地の上は気付けば雲のかけらひとつなくなっていた。

 私は美しい草笛の音色に聴き入っていた。

 スンと急に草笛の音が止まった。

 私は彼女を見る。

 彼女はケラケラと笑い始めた。

 背中を悪寒が走る。

 そういえば私は、誰と此処へ来たのだろうか。

 カラ、カラ、風車は止まり、墓地は静かな闇に包まれた。

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風車が止まるまで 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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