第8話 ダーリンの危機


「ダーリンの方は、変化ありませんでした」

「大変なことが、いくつかありました」

祥子が口をひらいた。

真一が、あわてて

「何でもない、何でもない」

「気になる、気になる」

順子が、言った。

「この一か月、若い女性に後を着けられてい

たんですよね」

「浮気しないでと、あれ程言ったのに」

「後を着けられただけ、他には何もありませ

ん」

「最初は、若い男と間違えて、人の横を小走

りして、通り過ぎるときにチラット人の顔を

見るんだ。」

「それから、どうなったんです」

「最初の時から一か月後に二十メートル前進

したところに止まり、振り向き人の顔をじっ

と見ていましたね、当然、私は歩いているか

ら、どんどん、近づきます

「そしたら、どうしたんです。」

「顔がはっきり見える位置まで来たら、じじ

いだと判って、反対向きに走っていったんで

すよ。」

「何もなくて、よかった。」

祥子が口を開いた。

「まだ、続きがあるの。」

「どういう事。」

「今度は、朝に毎日会うようになったんだ。

夜のときは、気づかなかったけど、そこそ

こかわいい子だったな。」

「ダーリン、なんて事を言ってるの。私がこ

の前、キスしてあげたのに」

「止めてね、順ちゃんが勝手にしたこと」

「嫌がらなかったじゃない」

「横になっているところに、突然やられれば、

誰でもイヤイヤできない」

そういう時に、祥子が笑いながら、

「お茶飲む」


真一は、さっさと、部屋に戻ってしまった。

すぐ、順子も来て、

「今日は、この部屋で寝ようかな」

「頼むから、上で寝てね」

「いや、今日はここで寝る」

「言い出すと、聞かないみたいだから、勝手

に布団くらいだすよ、後はやって」

と言いながら布団をちゃちゃっと敷いた。

「上でパジャマ借りてくる」

「風呂入ったら」

「そうする」

「俺も後で入る」

と祥子に言うと

「一緒にどう」

と順子

「有難う、後で入る」

「身体、ピチピチよ、見せてあげようか」

「有難う、体に悪い」

「どういう意味、文句あるの」

「或るわけありません、鼻血ブーです」


祥子が間に入って、

「順ちゃん、お風呂に入りましょう」

「はい」

祥子には、素直な順子だった。

「お父さん、明日、私留守だけど大丈夫」

「どうせ、今日、ここで寝るだろうから、

気持ちも落ち着くだろう」

「お母さんとの約束、どうするの」

「1周忌までは、守るよ。手を握ったりキス

くらいだったら許してもらおう」

「それなら、許してもらえるかな」

祥子も女房との約束、覚えていた。

「今日は、ここで寝かすけど、お父さんから

は、何もしないよ」

「判ってる、後、一か月だから、我慢して」

「心配してくれて、ありがとう」

祥子は、上にあがった。

暫くして、順子は、風呂から出てきた。交代に

祥子が入り、最後に真一が入った。

「暑い、暑い」


真一が、クーラーを効かせた部屋に入ってき

た。順子は、テレビを見ていた。

「直ぐに寝るの」

「熱気が取れなくて、暑い、暑い。」

とうちわでも扇いでいた。

「本当に暑がりなんだ」

「小学生の時は、大丈夫だったけど、大人に

なってからはアウトだね」

「フーン」

と声を出して、布団を順子は、くっつけた。

「今、暑いといったばかりじゃない」

「大丈夫、二人は、もっとアツアツだから、

そんな暑さに負けません」

面倒臭くなって、うちわ持って横になった。

直ぐ、照明を暗くしてぱたぱた、うちわで

扇ぎながら、横向いて,眠る態勢をとった。

「ねー、真ちゃん、祥ちゃんが、まだある

って言っていたのは、どんな事」

「眠いから、明日にして。今日は、疲れた」

「つまんない、私がいいことして、あげよう

かな」

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