第5話 順子と祥子の寝物語

2階の部屋では、二人の女が横になり、話が

始まった。

「お父さんて、どんな人」


「見てのとおりの人」

「やさしい、それとも、よく怒る」

「怒ることは、ほとんどない。宿題やら

ないで怒られた」

「それは、当たり前だわね」

「仕事やるようになってからは、ほとんど怒

らない」

「付き合っている女の人は、いないの」

「母が、亡くなったばかりだから、そういうこ

とはしてないと思う」

「お父さん、子供の時、大変だったんだって」

「祖父の倒産の件」

「そう、さっき話していた」

「倒産したけど、2年で全額、返したと言っていた」

「倒産した直後、岐阜の方に行っていたって」

「倒産した件と乗っ取りの件が発生して、そ

れが、大変だろうからと言って岐阜まで行っ

たと聞いてます」

「お父さん、幼稚園頃なんか、どんな子供だ

ったのかな」

「祖父母の仕事が忙しくて、保育園に入って

いたみたいでした」

「あ、そうなんだ」

「昼寝が嫌で、しょっちゅう保育園から脱走

していたようです」

「すごい」

「砂遊びと積み木、それから運動が大好きだ

ったみたいです。家のなかでは、おとなしか

ったらしいです。祖母からの話」

「小学校では、どんな感じだったのかな」

「低学年のときは、おしゃべり男で、女の

子とよく後ろ振り向いてはしゃべっていた

らしいです」

「もてもてだったのかな」

「低学年じゃたいしたことは、ないでしょう」

「先生に怒られていたのかな」

「先生が祖母の同期生で、よく祖母を引き合

いに出していたみたいです」

「どんな感じに」

「お母さんは、勉強ができましたよと」

「たいへん」

「毎日、先生に怒られていたみたい。」


「それも、すごいね」

「高学年は、どんな感じ」


「低学年は、チャラチャラしていたようです

けど、4年になって倒産して、岐阜に2ケ月

ばかりいて、それから東京に戻り、学校に行

ったら、勉強が判らなくなって塾に行かせて

もらったそうです」

「女の子とは、」

「倒産してから、祖母も忙しくなり、二人

の叔母は、小さく、叔父さんは何も手伝わ

なかったので。なんでも父がやったいたみ

たいです。炊事、洗濯、仕事の手伝い等を

やっているうちに、女の子とは疎遠になっ

ていたそうです」

「そうなんだ」

「家が、大変なんだと思うようになって、女

の子と何か判らないけど、軽く遊べなくなっ

た。と言ってました」

「そんなもんなんだ」

「お父さん、大変だったんだねー」

「自分では、たいした事、出来なかったけど、

借金返すの楽しかったって」


「どうして」

「職人達や女工さん、それから祖父母と一緒

の時間過ごせたのが幸せだったって」

「2年間、毎日九、十時まで仕事して、家二

十五軒分の借金を返したのは一つの誇りでし

ょう」

「なかなか、出来ないでしょうね」

「それでも、弊害があったって言ってました。

それまで、のんびりしていたのが、何だか判

らないけど、気が短くなったそうです。何か

イライラする感じがしていたそうです」

「経験していないと判らないわね」

「だから、中学入学では、イライラしないよ

うにと考えていたと言ってました」

「彼ってすごいのね。大人ね」

「私なんか、判りません」

「中学では、どうだったのかしら」

「中学では、勉強を頑張っていたみたいです」



「私は、中学、高校一緒だったから、のんびり

していたわ」


「私は、調理系の高校に行きました。短大も

一緒でしたけど」

「祥ちゃん、ごめん眠くなっちゃった」

「じゃ、また今度」

「お休み」

「おやすみ」


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