第17話
秘密基地を作り始めてこれで30日目の今日、俺たちはフリーの親父が言ってたように襲撃に備えるためにいつもより早く起きせっせと作業に取り掛かり昼前には建物が8割完成していた。
内装やガラスなどはフリーの親父が業者に頼んでくれるらしいから俺たちが使えるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。
一昨日の時点で俺とラミスの仕事は終わってしまったのでフリーたちと合流して一緒に仕事をしているが魔道具を一個しか使わないのであまり疲れなかった。
ボブは体外に魔法を放出できないため魔道具なしであんな重たいものを軽々と持っている姿に俺とラミスはかなり驚いた。
「助けてくれー」といきなり少し距離が離れたところからドラン領の人々の悲鳴が聞こえた。
「寝ちまったー!」
俺は自分の部屋から外を見ると黒いドラゴンが学園で暴れていた。
急いでじいさんから貰った武器をベルト付きの鞘に収めてリビングに向かう。
ちなみにベルト付きの鞘はフリーの親父から貰ったものでかなり使いやすい。
「お前起きるのが遅いんだよ、準備が出来てるな」
「絶対お前ら今起きたろ」
俺が部屋に入るといかにも寝起きですって強調するかのように4人の髪はボサボサで服もヨレヨレだ。
「今から戦場に向かうわけだが異論はあるか」
「俺は苦しんでいる人がいるなら助けに行きたい」
ボブとラミスは俺の発言に頷く。グレンは俺に視線を合わせ「あなたが行くなら」と全員一致で助けに向かう事に賛成で、フリーは少し笑顔になる。
とてもいい感じの流れになっているが残念なのは今の俺たちの状態にある、とにかくダサい、こんな決まってない格好で人々を助けに行くなんて歴代の英雄たちにいただろうか。
寝ていて助けに行くのが遅れたなんて普通はありえないし英雄を目指している俺にとっては大失態だ。そんなことを思っていると「全員賛成ってことで行くぞ!」とフリーが声をあげる。その声を聞き俺たちは一斉に学園に向けて走り出した。
「なんかボブたち足遅くないか、オイラこんなに足速かったけー」
「あの木材加工が効いてんだろ」
「あれきつかったもんなー」
「俺は足遅くねーぞ!お前ら足速くなりすぎだ!」
俺とラミスが話していると後ろからすごいスピード猛追してきたドレットヘアとメガネが特徴的なボブがこちらに話しかけてきた。
「おう、お前はこんぐらい出来るもんな」
「学園まで競争しようぜー」
俺たちはぐんぐんスピードを上げていく。後ろからフリーの声が聞こえた気がしたが競争に夢中になっていたため聞こえなかったふりをした。
俺たち三人が学園に着くと校庭がグチャグチャになっており黒いドラゴンと他の複数の黒い動物を先生たちやこの国の先鋭部隊が相手している。いつ先鋭部隊が壊滅状態になるかわからないほどかなりダメージを負っていた。
「おいおい、1位とか決めているとかそんな余裕ないじゃねーか」
「オイラたちがあれを相手するんだよなー、勝てんのかー」
「助けを求める声がいるんだ、やるしかないだろ!」
俺とラミスは武器を構えながら黒いドラゴンを相手に斬りかかるが硬い鱗に覆われており弾かれてしまう。俺とラミスはとっさに距離を置き黒いドラゴンの反撃に備えるが先鋭部隊の男が乗っているドラゴンの手で俺とラミスを鷲掴みして完全にこっちに攻撃が届かない場所まで運んだ。
「危ない、どうして君たちがここにいるんだ、早く逃げなさい」
先程俺たちを助けてくれた先鋭部隊の男がこちらに声をかけてきた。
「それはできない、助けを求めている人たちがいるから」
「オイラもここから離れるわけには行かないなー」
「しかし、まだ子供の君たちそんなことが出来るはずないだろう」
「でも助けを求めている人がいる」
「オイラたちならできるぜー」
先鋭隊の男は「しかし」と判断に迷っている。先鋭隊の男の後ろから一人のオールバックが特徴的なまだ若い男が「いいじゃないか、僕は行かせるの賛成だよ」と声をかけてきた。
「いいんですか、まだ幼い子供たちをこんな戦いに参加させて」
「責任は全て僕が取るから、隊長命令だ行かせるんだ」
「分かりましたよ、くれぐれも怪我がないように生きて帰ってくれよ」
俺とラミスを戦場に行かせてくれるようにオールバックの隊長と言われている人が話を通してくれた。助けてくれた先鋭隊の男は多分俺とラミスのことを心配してくれたのだろう。俺はそのことに対して暖かみを感じた。
ここに来てよかったなと俺は思いながら心を引き締め直し必ず生きて帰ってくるとを誓った。
「ありがとう隊長さん、俺に行かせてくれて」
「オイラたち絶対帰ってくるよー」
俺とラミスは武器を力ずよく握りしめて黒いドラゴンのもとへ走っていく。
走りながらラミスはなんかひらめいたように「この武器もしかして魔道具の類なんじゃないかー」と俺に話しかけてくる。確かにそうかもしれないと思い右手に持っていた刀に魔力を流す。
「すげー刀に雷が宿ってる・・・・・・・・え、リオルト王族なのかー!」
「声が大きい、やっちまったー」
普通の魔道具には属性色が出ない。そのため他の人からは使った本人の属性魔法を知ることができないのだ。しかし名家に伝えられる神器などは属性が出ると言われている。
白ひげのじいさんがくれたこの武器は神器なのか、俺にはわからない。だって神器を作れるなんて神話で出てくる神しかいないはずなんだから。
俺に王族の血が流れていることは一部の人しか知らない秘密にしていたことなのに自分でバラしてしまうなんて今日二個目の大失態だ。
俺が内心焦っている中「オイラって風属性だったんだな」と斧に風のオーラを纏わせていた。魔法を唱えるのが苦手だと希に自分の属性がわからないままの人がいると聞いたことがあるがラミスはそれに該当するのだろう。
「オイラの一撃を喰らえ」
いきなり立ち止まりラミスが思いっきり斧を横に振ると風でできた真空波が斬撃として姿を現し少し遠くにいる黒いドラゴンに命中した。黒いドラゴンのウロコに深く傷が入り痛みで鳴き声を発する。
「なんて威力なんだ、これなら行けるぞ!」
俺とラミス以外のこの場で戦っている人々が活気づく。ラミスが放った攻撃が強固な鱗を持つ黒いドラゴンに少なからずダメージを食らわせたことでその瞬間を目撃した戦っている人たちに希望を見出したのだ。
「なんとなく斧がスゲーことになったぞー!」
「やべーな、神器ってのはこんなにも威力が高いのか」
痛い目に遭わされた黒いドラゴンはこちらに視点を合わせ口を膨らませる。
「君たち危ない、ブレスが来るぞ逃げてくれ!」
先鋭舞台の男の悲鳴に近い叫びが聞こえる。俺たちはうまく動けずこのままでは直にブレスに当たってしまうというピンチに陥った。オールバックの隊長と言われた男が操縦するドラゴンの後ろにボブを乗せ黒いドラゴンの顔めがけて一気に急降下する。急降下途中でドラゴンから飛び降り黒いドラゴン鼻にうまく着地した。
「お前らドラゴンは鼻に神経が通っているらしいな、ちょうど鱗もなさそうだしこれでくたばれ!」
メリケンサックをつけたボブは少し力を貯めたあと殴りつける。
「ギュァァァー」
あまりの痛みに暴れながら黒いドラゴンはブレスを上向きに放射した。ボブは素早く降りオールバックの隊長と言われている男に拾われていた。
黒いドラゴンは痛みにこらえながらこちらを睨みつける。かなり怒ているらしくすごいスピードで大きな口を開けて大きな牙を見せながらこちらに迫ってきた。俺は黒いドラゴんを迎え撃とうと一歩前に立ち刀を構えた。黒いドラゴンの大きな牙と俺が構えた武器が当たりどんどん押されながら後ろに下がる。
何を考えたのか黒いドラゴンは長い舌を牙の間から瞬時に出して俺の腰に巻き付け口の中に引き込もうとする。俺は牙の対処に追われていたためうまく対応できずまんまと黒いドラゴンに飲み込まれてしまった。
「何だこの部屋は胃の中じゃないのか?」
俺は自分が飲み込まれた先が消化器官だと思っていたが何か違う部屋にたどり着いたようだ。照明がついているみたいに明るく目の前に赤い人間より一回り大きなまゆが存在している。
「何かまゆから声が聞こえるな」
俺はまゆに近づくと「助けて・・」と今にも枯れそうな弱々しい声が聞こえた。
俺はこの声に行方不明になってしまった彼女を思い出す。
半信半疑な自分がいる中「助けて・・・・」ともう一度声が聞こえてきた。
「今助けてやるからな」
決闘をした次の日から顔を合わせていないランネス家の彼女で間違いないと確信を持ち俺は刀を使いまゆに浅く切れ目を入れていく。
胸元に赤い石が埋め込まれた例の彼女が裸の状態で腕と足がまゆにくっついているで姿を現す。
俺は腕や足にくっついているまゆを切り離し彼女を抱える。
「僕の裸が見られてしまうとはなんたる不覚なのだー」
「え・・・・・起きてたんすか」
「この無礼者ー!」
強烈なビンタをくらい俺は彼女ごと真後ろに倒れる。口に柔らかな感触がすると思って目を開けると彼女の目がすごい近いことにきずく。俺は彼女と接吻いやキスをしたのだ。人生初の経験である。
「済まない、こんなはずではなかった」
「僕のキスをもらっておいて済まないはないだろ!」
「とりあえず服を着てくれ・・・・・・頼む」
俺がズボンと服を脱ぎ彼女に渡すと無言で顔を赤くしながら着始めた。俺はパンツ一丁だが仕方ない。
「何か液体が出ているぞ」
「俺のズボンのことか」
「違う、地面を見てみろ」
湯気が出ている液体が少しずつだがこの部屋の端っこにある小さな穴から出ていることに気づく。俺はおしっこを漏らしたかもしれないと少し焦ったがそんなことはなく良かった。
俺はこの液体がヤバそうな気がしたのでうまくいくかわからなかったが「失礼少し肩を借りるぞ」と彼女の肩を左手で掴みこちらに抱き寄せ自分の刀を地面に刺し魔力を流す。上からゴロゴロと音が鳴ったかと思うと雷が天井から降ってきた。かなりの衝撃が走り俺と彼女は目をつぶってしまった。
「生きてるな、よかったぜ無事で」
ボブの声で目を開けるとキレイに黒いドラゴンの骨だけが残って外から見えるようになっていた。自分が使った魔道具のおかげかキレイに黒いドラゴンの肉が消滅していた。
「この骨の隙間から出れそうだぞ」
「そうだな出よう」
俺と彼女が出てくるとボブとラミスが俺にハグしてきた。
「お前死んだと思ったんだぞ!」
「生きててよかったぜー、よしゃーこの場にいる全員で胴上げするぞー」
ラミスの声を聞いたその場にいる人たちが一斉に俺と彼女の周りに集まり持ち上げた。「一斉のよくやったリオルト」とラミスが言うと俺と彼女は宙を舞った。
それから数分たち胴上げが終わるとフリーたちが近寄ってきた。
「お前たち俺らを置いていいところだけ持って行きやがって」
「あんな大きく雷なんぞ使ったら自分の身分がこの国に知れ渡るでしょうに」
「一様俺たちと小さな奴らを片付けたんだぜ」
「お前らが早く行くからだろ!」
「後でお説教ですかね3人とも」
俺たちはグレンの恐ろしい笑に寒気を感じながら今夜は早く寝ようと同じ考えをしていた。
「その服ってリオルトのだろ、さてはお楽しみだったな」
「これは別に・・・・・・・知らん!」
彼女は顔を真っ赤に染めながら走って逃げた。
「それもそうだ、リオルト今気づいたがパンツだけしか着てないじゃん」
このあと絶対からかわれるじゃないか。しかしパンツ一丁で胴上げされるのってなかなか経験だなと思いながらこの場をみんなであとにした。
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