第28話 緑埜航平「田中がそっち?」

 銃口は確実に、僕の方に向いてる。


 なんで僕や? 赤羽さんより、僕の方が弱そうに見えたんやろか。


 まあ、実際弱いけど。




「『こんな時代』だから、銃なんて珍しくもないだろ」




 ニットキャップの言うとおりや。




 現在、10人に2~3人は銃を所持してる。と、言われてる。


 もちろん、銃の所持自体は違法やから、正確な数値はわからへん。


 「あなたは拳銃を持っていますか?」っていて、正直に「はい、持っています」なんか言うわけないからな。




 赤羽さんが僕の前に移動して、両手を広げて立った。


 銃弾から僕を守るみたいに。


 ただ……




「お! お友達をかばおうっての? ユージョーだねー」


「田中、さっさと、撃っちまえよ!」




 その言葉に衝撃を受けた。


 アフロの男が、ニットキャップの男を「田中」って呼んだからや。


 アフロの方が田中やないことに、驚き……、いや、落胆した。




 せやけど……、アフロとニットキャップはわかってない。


 拳銃のたまが、僕らにあたるわけがないんや。




 もちろん、銃弾が発射されてから避けようと動いても、間に合わへん。


 発射されてから動いて、それでも避けれる人なんか、5人の中でも青砥さんぐらいやろ。




 レンジャースーツを着んとたまがあたったら、あたり所によっては死ぬ。


 せやから、発射された弾をけるんやなくて、引金ひきがねに添えた指の動き、それと銃口の向きから、弾の軌道とタイミングを判断してけるわけや。




 つまり、避けるためには、相手のを注視する必要がある。




 で、今は赤羽さんの身体からだに隠れて、僕からは相手の指と銃が見えへん。


 結局のところ、赤羽さんは僕のことを




「殺す気かっ!!!」




「あれ? バレた?」


「『バレた?』ちゃいますわ!」


「大丈夫だっての!」


「大丈夫なわけないでしょ!」


「だってよー!」




「おい! お前ら、何イチャついてんだよ! マジで殺すぞ!」




 ニットキャップの言葉を無視して、赤羽さんは続けた。




「この銃、弾丸タマ入ってねえんだもんよ!」




「「「 え?? 」」」




 僕だけやなく、ニットキャップもアフロも、意表を突かれた顔をした。


 ニットキャップは、「なぜバレたんだ?」とも、「え? 今朝入れてきたのに」とも受け取れる顔や。




「テ、テキトーなコト言ってんじゃねーよ!」




 赤羽さんは男の銃を指さして言う。




「知らねえみたいだから教えてやる。さっき見えたんだが、グリップの側面の穴、黒かったんだ」




 ニットキャップが確認するように、グリップの側面を見た。




 僕の位置からも見える。ネジ穴のようにも見える、あの穴か?


 確かに黒い。




「『マカレフM92』は初心者用の銃だから、弾倉に弾丸タマが残ってるかがわかるようになってんだよ」




「マジかよ……」




「で、弾丸タマがまだ残ってるときは、その穴が赤色、弾丸タマからになると、黒色になるわけだ。素人しろうとは、今まで何発撃ったとか覚えてられねえだろ?」




 赤羽さんは銃に指を向けなおす。




「だから、その銃には弾丸タマは入ってねえ!」




 赤羽さんは断言した。




「……い、いや! そんなはずねえよ!」




 ニットキャップは、銃を赤羽さんに向けて構えなおした。




「じゃあ、撃ってみろよ」


「え?」


「引金をひいたら、その時点で殺人未遂だ。そのとき、弾丸タマが出なかったら、その瞬間……」




 赤羽さんが道路脇にある、コンクリート製の電柱を蹴ると、電柱は破滅的な音を立ててゆっくり倒れた。


 中の鉄筋まで、ぐにゃりと曲がってる。


 この人、レンジャースーツなしでも、こんなパワーあるんや……




「お前の身体がこうなるけどな。それで良ければどうぞ」




 二人は冷や汗をかいて、青褪めた。


 そらそうやろ。生身の人間の蹴りで、電柱が倒れたわけやから。




「まあ、葬式代くらいは出してやるよ!」




 赤羽さんは、何かおもしろいことでも言うたみたいに笑った。




 せやけど、僕が蹴ったらどれくらい壊せるんやろ?


 そう思て、近くの電柱を探したけど……、すぐに考えを改めた。


 この近辺で、二本も電柱壊してどないすんねん。




「お、おい……、行こうぜ」


「あ……、ああ」




 二人は逃げるように走った。実際逃げてるんやろう。


 赤羽さんが、なんかしてくんのを恐れてるんか、顔を何度もこっちに向けながら逃げた。




「ああぁっ!!」




 二人の姿が見えへんようになってから、赤羽さんが声を上げた。




「どないしたんすか?」


「あいつらに、謝罪させるの忘れてたあっ!」




 赤羽さんは、頭を抱えて悔しがった。


 僕は自転車を押しながら歩き、その横を赤羽さんは並んで歩いた。




「しかし、あんな銃のグリップの穴のウンチク、よう知ってましたねえ」


「ああ、あれな。あの穴は……、ネジ穴だ」




 僕はびっくりして、ブタ鼻みたいな音がでた。




「あ、あれ、ウソなんですか?」


「お前、信じたのか? あんなのウソに決まってんだろ」


「あの緊迫した場面で!?」


「ウソでも自信持って、堂々としてれば大概たいがいだませる!」




 赤羽さんは堂々と言うた。せやから、コレもウソかもしれへん。


 せやけど……、ちょっと待てよ?




「も、もし、撃たれたら……、どないするつもりやったんですか!」


「撃たれなかったじゃねえか」


「そうやなくて! 撃たれたら、けますよね?」


「そりゃ、けるだろうな」


けたら、僕にあたりますよねっ!!」


「あたるだろうな」




「殺す気かっ!!」!




 赤羽さんは「あれ? バレた?」って言うたあと、笑いながら続けた。




「まあ、葬式代くらいは出してやるよ!」




 この男、どこまで本気なんや……

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