第21話 赤羽颯太朗「おれたちの過去」

「観てたよ! 指令室のモニターで。ミドのヤツ、活躍してたな!」


「観てねえだろ。他の作業しながら聴いてただけだろ」


「ははは! まあな」




 司令官の白鳥シロさんは笑いながら言った。




 妖魔獣ゼラチンマンとの戦闘バトルを片付け、特警に戻った後、シロさんと晩飯を食いに向かってるときのことだ。


 いつものように、シロさんはオレンジレンズのサングラスをかけてる。夜でも、だ。




「大丈夫か? 手ぇ貸してやろうか?」


「おいおい、そんなとしじゃないって」


「そういうことじゃねえだろ」




 しかし、よくもまあ、不都合なく歩けるもんだ。




「不都合はあるぞ。でもまあ、見知った街だからな」




 シロさんは、おれの考えを読み取ったように言った。




 シロさんは5年前まで、【特警戦隊ボウエイジャー】のリーダーだった。




 5年前--


 いつものように妖魔獣が現れたとき、シロさんとおれ、青砥の他、当時のメンバーで戦った。


 だが、妖魔獣プテラプロスは強かった。




 言い訳をしろって言われりゃあ、いくらでも出てくる。




 それまでのバトルが余裕だったからって理由で、相手を舐めていたこと。


 空を飛べるプテラプロスの、上空からの攻撃に苦戦したこと。


 前日の夜、青砥に注意されたにもかかわらず、飲み過ぎたこと。






 そのバトルで、シロさんはプテラプロスに目をやられ、視力を失った。


 シロさんが、おれをかばったからだ。




 失明したシロさんは、現場を退いた。




「オレも31だし、引退してもいいだろ?」




 当時、シロさんは笑いながら言ったが、無念でたまらなかったに違えねえ。






 シロさんは白杖はくじょうを持たねえ。




 だから、きのこやミド、結華は、シロさんの目が見えねえコトを知らねえ。たぶん。




「他のやつらには言わねえのか? ……目のコト」




 おれが訊くと、現在のシロさんも笑いながら答えた。




「颯太朗だったらどうよ? 目も見えない、戦うこともできない上司の下に就くのは」




 シロさんは自身を卑下しているわけでも、高いプライドが邪魔して隠しているわけでもねえ。


 単に、ボウエイジャーが一丸となって悪に立ち向かえる状況を少しでも高めるために、言っても不安にしかならねえコトは言わねえ。それだけだ。


 そんなこたあ、わかってる。




 だが……




「すまねえ……」




 おれは、そんな安っぽい言葉しか返せねえ。




 緑埜アイツらが妖魔獣にられそうになったとき、おれはシロさんみてえに、自分の身を挺して庇うことができるのか。


 まあ、リーダーって立場なら、やるしかねえんだろうが。




「そんなに深く考えることはないぞ。あの時のオレは、そうしたかったからしただけだ」




 シロさんはまた、おれの心を読み取った。




 視力を失ったせいで他の能力が、つまりは相手の心を読む能力が高くなったのだろうか。


 それとも、単に付き合いが長げえからなのか。


 おれはふと、そんな余計なことを考えた。




「アイツ、生きてるらしいぞ」




 シロさんが言った。




「……ああ、知ってる」




 アイツってのは、妖魔獣プテラプロスのことだ。


 国防省の諜報部隊からの情報によると、ヤツは【漆黒の亡霊ブラックファントム】に更なる改造を加えられて、各段に強くなったらしい。




 次、現れたときには、ぜってえぶっ殺してやる!






 ポリポリという音が聞こえた。




 横を歩くシロさんを見ると、居心地が悪そうな顔で、首を人差し指で掻いていた。


 おそらく、この湿っぽい雰囲気が苦手なんだろう。




 おれも好きな空気じゃねえ。


 仕方ねえ。変えてやるか。




「あのさあ、さん……」




 おれが言うと、シロさんは少しの間キョトンとした顔を見せた後、




「あーん! 色違い!」




 と、高い声で言った。




「おれ、リーダーとして、たちのこと守るぜ!」




「あーん! 音階違い!」




 今度はおれがシロさんの「空気を変えたい」って心を読んでやった。


 どうやら、互いに心を読めるみてえだ。




 これは、単に付き合いが長いからなのか。


 それとも、シロさんのサングラスが、オレンジレンズだから、以心伝心なのか。


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