第3話 緑埜航平「ラップは意外と難しい」
いや、その前にひとこと言うとかなあかん!
「あんな、『ミドくん』って、僕、先輩やぞ」
「ウケる! 先輩後輩って! アタシ、インターンだから、まだ学生だし!」
「ほな、なおさら敬語使えよ!」
「ふーん、せっかく大学の女友達紹介してあげようかと思ったのにー、残念」
「! じぇ、じぇじぇ、JD!?」
マジか!?
めっちゃ風の音が
「あまちゃん?」
胡桃沢は数年前の公共放送の朝のドラマのタイトルを口にしたけど、なんで今その名前が出てきたんか、意味がわからへん。
けど。
「お、お前、めっちゃええヤツやなぁ!」
「イェーイ! 胡桃沢、あげみざわ!」
胡桃沢は猫の着ぐるみのまま飛び上がった。
僕も飛び上がりたいけど、話を先に進めなあかん!
「で……、ど、ど、ど、どんな子?」
「んー、確か、東北の田舎で『海女さん』目指してて、いろいろあってアイドルを目指すようになって……」
「あまちゃんの話はええねん! 今は、……だ、大学のお友達さまのことや!」
「ああ、そっちね。えーと、黒髪の美人で……」
「おお!」
「清楚な感じで……」
「おおお!」
「夜はキャバでバイトしてて……」
「あかん!!」
取れるくらい、首を横に振って言うた。
「あかんあかん! そんなふしだらな仕事なんかしてるようやヤツ、
「ひどい! 偏見! 職業差別!」
「なんとでも言え! 僕は、清楚なお嬢様の美人で、趣味がフルートの美人しか女性とは認めへん!」
「バッカじゃない!? 美人が2回出てきてるし! そして、そんな女いねえし! 万が一いたとしても、お前には惚れねえ!」
「なんやとぉ! 僕は正義の味方やぞ!」
僕と胡桃沢の言い合いに見かねたんか、青砥さんが歩いて来た。
「お前たち二人に、言っておきたいことがある」
「青砥さん??」
普段、怒りの感情を表に出すことはない人やけど……、いつになく真剣な顔や。
「お前たち、『メディアでフューチャーされたい』って言ってたけど……」
……言い返されへん。確かに不謹慎や。
ヒーローは周りにちやほやされるためにやるもんやない。
民間人を【
思慮分別が欠如してると言われてもしゃあない。
「すいません! 軽はずみでした」
僕は頭を下げた。
「アタシは言ってないし!」
胡桃沢がそう言うと、青砥さんは真剣な顔のままで言うた。
「いや……、『フューチャー』じゃなくて、『フィーチャー』だから」
「「……はい?」」
僕と胡桃沢は同時に、意味がわからないことを伝える返事をした。
「メディアとかで『特集』されるのはフィーチャー。フューチャーは『未来』だから」
僕と胡桃沢は、目をぱちぱちさせた。
なるほど、間違えてたんや……。
フューチャーとフィーチャー……、ラップみたいなや。韻踏んでて。
「だっさ! そして、ウケる!」
胡桃沢が僕を指さして言うた。
「いや、お前も言うてたからな!」
「は? アタシは、『戦隊ヒーローは日本の未来のために、評価されないといけない』って意味で言っただけだし」
「後付けやん!」
「小さい男だねー。モテないはずだ」
「モテへんのとは関係ないやろ! そもそも、僕を愛してくれてる相手はおる!」
胡桃沢は驚いた顔を見せたけど……勢いにまかせて言うてもただけや。
けど、まあ、嘘吐いてるわけやないし……
「……犬? それとも猫?」
なんで、その二択やねん。
正解やけど。
「……犬や。ミニチュアダックスで名前はマルク」
「だっさ!」
「なんでや!!」
ドイツ原産の犬やから、名前をEU設立前のドイツの通貨「マルク」にした。
僕の存在を喜んでくれるんはアイツだけや。
僕に無償の愛を注いでくれる。
「上目遣いで人間に媚を売るしか能がない犬のドコがいいの」
「そこがええんやないか!」
「だいたい、女子に人気があるのは犬よりも猫! 断然、猫!」
胡桃沢は自分の着ぐるみを指さしながら言うた。
「まあまあ二人とも、悪かったよ。余計なこと言って悪かった」
今度こそ青砥さんは、僕らのやり取りに見かねたらしい。
「緑埜、どうだ? これから飲みにでも行かないか?」
「え? いいんすか?」
「まあ、『こんな時代』だから、気分転換も必要だろ」
青砥さんは時々、こうやって飲みに誘ってくれる。
優しい先輩や。
こうなったら、飲み屋で教えてもらうで!
どうやったら、僕がフィーチャーされるフューチャーになるか!
青砥ティーチャーに! YO! YO!
マルクのことは
YO! YO!
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