第2話 緑埜航平「ヒーローのイメージは大切です」

 今まで必死に頑張って、やっとの思いでボウエイジャーに入れたのに。


 運もかなりあったけど……




 緑か? 緑色があかんのか?


 緑茶よりは確実にカモミールティーやし……


『好きな色ランキング』やったら上位にくるのに、『好きな服の色ランキング』になったら、急に下位になる緑……せやからあかんのか!




「このまま僕はまったくフューチャーされんと、女の子にもチヤホヤされへんまま人生を終えるんか……」




 そう言うた後、考えを改めた。




「いや、正義の味方に色恋いろこいは必要あらへん! そうですよね!」




 僕は赤羽さんに同意を求めて、後ろを振り返った。




「なにしてんねんっ!」




 思わず口を吐ついた。


 振り返ったら、目の前のソファーで、赤羽さんが胡桃沢の膝枕で横になってたからや。




 色恋にまみれとる。




「戦闘バトルの後くらい、好きにさせろよ」


「だよねー」




 赤羽さんと胡桃沢の言動には呆れた。けど、全否定やない。


 赤羽さんはボウエイジャーのリーダーで、強い。その上、民間人にも人気がある。


 強くてモテる。性格に難はあっても、戦隊ヒーローの理想形には違いない。


 ただ……




「世間のイメージってもんがあるでしょ! ねえ!」




 言いながら顔を横に向けたら……、リアクションを取るしかあらへん。


 黄の戦士イエローのきのこさんが、米を飛び散らせてカレー食ってたからや。




「きのこさんはイメージを大切にしすぎでしょ」


「そう?」




 確かに戦隊ヒーローのみんなはイメージを大切にしてる。




 元ラグビー日本代表でごっつい体をしてる黄瀬寅丸きのせとらまるさん(本名は「きのせ」やのに、なんでかみんなに「きのこ」って呼ばれてる)は、黄色のドレッドヘアでカレー好きやし、赤の剣士レッド赤羽颯太朗あかはねそうたろうさんは赤いライダースジャケットに赤い髪。


 青の槍士ブルー青砥雅騎あおとまさきさんも髪を暗い青色にしてる。


 唯一後輩の桃の術士ピンク胡桃沢結華くるみざわゆいかもピンクのショートヘアや。普段着はドンキで売ってるような動物の着ぐるみで、今日は猫バージョンやけど、コレはイメージづくりとは関係ないと思う。




 ただ、僕は髪を緑色にしてるわけやない。理由はカンタン! ハズいからや!


 髪が緑色のヤツなんか、歌舞伎町かアメ村でしか見たことない。


 それに、特殊警備隊以外の人に正体がバレたらあかんのに、わざわざヒント与えてどないすんねん。




「しかし……、かなりステレオタイプのイエローだな」




 赤羽さんがきのこさんに言うた。


 確かに、イエローでカレーは、王道というかベタすぎる。


 けど、きのこさんは、「何を言ってるんだ」と言わんばかりの顔をして言うた。




「? ぼくが、かなりスタイルナイスのイケメン?」




 なるほど、「かなりステレオタイプのイエロー」と「かなりスタイルナイスなイケメン」と聞き間違えたわけや。




 聞き間違えるかっ! ドアホ!


 どんな耳しとんねん!




 そう思てたら、赤羽さんが思てたんと違う返しをした。




「……カレーって、鼓膜が溶ける成分、含まれてたっけ?」




 ほう。聞き間違いはカレーの成分で鼓膜が溶けたせいっていうテイや。


 さすが赤羽さんや。




 僕やったら「どんな耳しとんねん!」って返す。


 ほんなら、きのこさんが指で描きながら「こんな形の……」って言うてくるから、「カタチはええねん!」って返す。


 こんな王道のやり取りしかできへんけど……さすが、これが東京や!!




「あのさ、ミドくんはメディアでフューチャーされて、女の子にモテるためにヒーローやってんの?」




 胡桃沢がこれから始まる正論の序章みたいなこと言うてきた。クソ生意気なヤツや。


 後輩のクセに説教するつもりか。




 聞きたないから、カレー食って、鼓膜を溶かそかな。


 もちろん、グリーンカレーやけど。

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