第1話 緑埜航平「目立ちたいのがアカンのか!」

 画面の中で、ヒポポンが死んだ。




「ワシわいっ!!」




 僕は思わず叫んだ。


 ヒポポンが倒されたからやない。


 理由は……、いつも通りや。




 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




 こっちでは映ってるハズや! 根拠はないけど!!


 メインルームの200インチ以上もあるモニターに映ってるのは、今日のニュースや!




『本日、午後三時過ぎ、上野動物園に【漆黒の亡霊ブラックファントム】の妖魔獣、ヒポポンが出現しました』




【特警戦隊ボウエイジャー】が出動したら、大概はニュースで報道される。


 さっきは公共放送を観て、その次は民放を観て……これが3局目や。




 ほんで、僕はモニターに集中してるわけや。


 かぶりつきや。観劇で言うたら、かぶりつき状態や!


 いや、「噛かじりつき」の方が、しっくりくるかもしれへん。




 ただ、他の4人は全然興味を持って無い。




緑埜みどの、また、目と鼻のあなが膨らんでるぞ」


「すんません! ちょっと静かにしといてください!」




 青砥あおとさんが話しかけてきたけど、僕は振り向かんと青砥さんを制した。




 自分ではわからへんけど、僕は緊張したら、目と鼻の孔が膨らむらしい。


 しかし、鼻の孔が膨らむのはわかるけど、目が膨らむってどーゆー状況やねん。




 あかん、手に力が入りすぎて、汗でヌルヌルしてまう……




『暴れるヒポポンに対し、国防隊が応戦しましたが、効力は薄く……』




 国防隊ごときが勝てるかっちゅうねん!




『そんな中、ようやく【特警戦隊ボウエイジャー】の5人が現れました』




 \\ キターーーーッ!!! //




 赤の剣士レッドがモニターに大映しになってる!




 まず、僕が切り込んで、ヒポポンに右ストレート!!




『まずは、桃の術士ピンクが得意の遅緩スロウ魔法で、妖魔獣の動きを鈍化し――』




 いや! 違うやん!


 なんで、僕の攻撃、カットされてんねん!!


 僕の先制攻撃で、相手が怯ひるんだから桃の術士ピンクの魔法が当たったんやないか!




『そこで、青の槍士ブルー氷結の槍フリーレン・ランスで、ヒポポンの腹部を攻撃』




 青の槍士ブルー、カッケー!!


 いや! ちゃうねん!


 このとき、映ってないけど僕、ヒポポンの背中にキック入れてんねん!




『そして、黄の戦士イエローいばらの鉄球が妖魔獣の頭に直撃』




 次や! この後!


 僕のド派手な、無限マッハパンチが!!




『最後に赤の剣士レッドによる、灼熱の剣アルダン・ソードが一閃!』




「ワシわいっ!!」




 言わな、やってられへん!


 ただ、想定通りやし、いつも通りやけど……僕の活躍は端折はしょられる。


 その上、5人が勝利のポーズを決めてるときも、端っこの僕は中継レポーターに隠れて、肩しか映ってへん……。




「ミド、その『ワシわい!』、本日3回目だな」


「さーん、かーい、めっ!! ……ウケる!」




 後ろでは、赤羽あかはねさんの言葉に対して、胡桃沢くるみざわが広島県出身の長身お笑いコンビのツッコミを真似マネしたけど、このモノマネ自体が今までに3回は聞いたことがあるから、相手にせえへん。




 って言うか、相手してる気分やない……。




「なんで……、なんで僕だけ、いっつもフューチャーされへんねん!」




 僕は、こんな酷い仕打ちを受けるために、正義の味方になったわけやない……。


 あかん、泣きそうや。




 だいたい、動物のサイをモチーフにした妖魔獣やのに、なんで、名前が『ヒポポン』やねん。


 ヒポポタマスはカバやろがいっ!




 あかん、泣きそうや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る