第20話 黒塗り

 火曜日は女子チームの練習がない。とはいえ、混成チームの練習はある。



「乗って!」



 一言でソフィは伝えてきたが、重厚な黒塗りのワゴン車というのは、以前見た豪奢ごうしゃなセダン車――ヤクザの乗りそうな――に負けず劣らずの迫力がある。端的に言えばすんごい怖い。関わり合いになりたくない。


 両隣にいるチサと結衣ゆいも、脅えているのか、微妙に俺の服をつかんできているし。



「五人乗りの車でも乗れたんじゃないのか?」


「五人乗りじゃ、ボディーガードが乗れないよ」



 ……こいつ、日本に滞在するために警備までついてるのか。


 オーナー令嬢半端ないって……。そんなんできひんやん普通。


 というか俺、うっかりソフィにセクハラ紛いの行為とかやらかしたら、物理的に死ぬかもな。女子選手相手のやらかしも社会的な死が待っていそうだし、俺に安住の地はないのだろうか。…………確か休みに帰ってきたはずなんだけど。



「大丈夫だよ。学校とかバイト中は一人にさせてもらってるけど、パパの車を使うときは仕方がないだけだから」


「俺が何考えてたか、わかったのか?」


「常に気を抜けないな、っていう顔してた。ケイタはわかりやすいから」


「そんなに表情に出てるのか、俺って……」



 少しだけ会話を交わした後、ソフィは結衣に語りかける。



「朝は行けなくてごめんね、結衣。パパを説得するには、朝、電話する必要あったんだ。時差があるから……」


「へ、へぇ……」



 おい。結衣が引いてるぞ。片方の口端だけを動かして顔が引き攣っている。こんな表情は初めて見た。


 ワゴン車の電動スライドドアなんて、ボタン一発で自動開閉だろう。なのに、わざわざ運転手がそばへ来る。


 その運転手も見た目上はボディーガードと遜色そんしょくない。サッカーが上手ければ当たり負けしない屈強なセンターバックになれそうだ。威圧感あるし。が飛んでくるかもしれない環境に比べりゃなんて怖くなかろう。



「で、どこに行くの? 練習をサボらせるからには余程よほど意味がある場所なんでしょうね?」



 乗り込む前に確認したかったのか、ちょっと早口になって結衣は言った。


 ……さてはこいつ、練習休むと不安になるタイプだな。気持ちは痛いほど解る。



「近くのスケートリンクだよ」


「スケート……?」

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