第17話 乳化しない
練習試合まで残り一週間となる、日曜の練習。
「なんでパス出さないの!?」
「タイミングが合わないのよ!」
最近は攻撃を
彼女たちに対する守備陣には、ゴールキーパーの
守備陣はほとんどフルメンバーを組ませて、攻撃の三人に対抗する。対戦型の練習でなければ実践的な連携の形を作れないからだ。
現実的な問題として、女子チームは結衣やチサ達の攻撃力を活かさなければ勝ち目がない。ここで連携が取れなければ致命的となる。
すでにチサと果林には、小学生時代からのホットラインが形成されている。チサと結衣の組み合わせも、チサは結衣のプレーをコピーしようとしていたほどだから、よく見ているだけあって上手く合わせている。結衣もチサの実力を認めてはいるようだ。
――――しかし結衣と果林が、どうにも合わない。
パスの出し手と受け手、どちらが相手に合わせるかというのは、サッカーをしているとしばしば問題となるけれど……。
「チサより上手いって言うんなら、チサより良いパス出してよ!」
「あんたの動き出しが遅いからズレてるのよ! もうちょっと速く動き出すぐらい出来るでしょ!?」
ああ、マズい。こいつら水と油の感じがする。このままじゃ永遠に混ざらない。
俺は水と油両方と上手く合わせているチサに声をかけた。
「チサは、どうやってタイミングを測ってるんだ?」
動きを見ていると、結衣や果林が合わせているという感じではない。チサが全体のリズムを作っている印象だ。
「えっと……、こう、ちょっとズレてるなあって思ったらピッて止まって、ググッと待って、あとはズバッとするとワンテンポ遅らせられますし、速くしたいときはこうグイッと――」
だめだ。これは天才特有の、感覚でしか説明できない持病のようなやつだ。
「質問を変えるぞ。なんで結衣は、チサの、その――ピッて止まってズバッと出すパスが、できないんだと思う?」
「えー……と。できないんじゃなくて、瀬崎さんの基準だと、そうやって遅らせたパスが通っても男子チーム相手には通用しない――ってことなのかな、と」
「なるほど、ねえ」
俺はチサの言葉を受けて、そのまま言い争う二人の元へ歩いた。
「なあ、結衣。パスのタイミングを遅らせたとして、それは男子チームに通用しないのか?」
「一、二年生が相手なら通用するわよ。多分」
「じゃあ遅らせればいいじゃないか」
「レベルを下げて満足したくないの! 第一、私は混成チームでもやってるのよ!? ここでレベルを落としたら、余計に通用しなくなっちゃうじゃない!」
「ああ、なるほど……」
とりあえず、瀬崎結衣の言い分はわかった。
続いて、その隣で不満げにしている一枝果林にも、同じように話題を振る。
「果林は、どうしたらいいと思う?」
「練習試合に三年生が出てこないなら、今は息を合わせるのを優先すべきです! 勝てば良いんですよ。勝てば!」
「なるほどねえ。一理ある……」
俺は腕を前で組んで、悩み、そのままフィールドの外へ出た。
「あっ、続けてていいからな」
思い出したように彼女たちへ言うと、待っていたソフィが「解決した?」と訊いてきた。
俺は首を捻って更に悩む。
「…………やばい。なんにも解決策が浮かばない。結衣も果林も、どっちも正しいような気がしてきた」
「チームはファミリーだよ! フィールドで解決出来ない問題がフィールドの外で解決することもあるし、結衣と果林はプレーよりも、まずお互いのことを知ったほうがいいと思う!」
「まあ、確かに」
留学中も――。いや小学生の頃にだって、そういうことは多々あった。
試合や練習となるとではサッカーだけに頭が行くから、主張がぶつかってしまう。でも相手の性格とか人となりを知ると、サッカーとは別のところで精神的に通じ合うものが生まれたりするんだ。
すると不思議と、試合中の問題まで解決することがある。
二人の間にはその関係が足りていない――――ってことか。
結衣はずっとサッカー漬けで、少なくとも小学六年生まではチームの中心であり続けた選手。いや、中学一年生の新人戦でも背番号10を背負っていたそうだから、そこでも中心だったのだろう。
一方で果林はサッカー歴が浅く、結衣とはほとんど初対面の関係から始まった。すれ違ってしまう要素は十分だ。パスの出し手と受け手の関係。典型的な
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