第5話 つんぷる
二十メートルダッシュを百五十本。
距離に
タイムを決めなければ不可能ではないし、マラソンと考えるとむしろ短い。けれど一応これ、ダッシュなわけで……。
彼女は大きく息を乱しながら、へたりと寝転んで、地面に全体重を預けてしまった。
「ええっと、
「できるわよ! 参加する!」
「地面に頬くっつけて言われてもなぁ」
目力だけは確かだけどさ。
まさか、ここまで疲れるほど走り込むとは。一歩も動けなくなるまで自分を追い込むってのは結構苦しいものだ。動き出して最初に感じた苦しさから何度も何度も繰り返し限界を突破しないと、こうはならない。
手を抜くとか、そういうのを知らないのだろうか。……まあ知ってたら不器用じゃないんだよな。目の前にある壁を正面突破しようとする性格、個人的には好きなんだけどやっぱり見ていると少し辛い気持ちになる。何せ瀬崎
「できるって言ってるの!」
「無茶言うなって……」
自重に潰されるようにして
呆れた俺は仕方なく、瀬崎の足首よりちょっと上を、指先でツンツンと突いた。
「ひぅ!?」
「こんな状態で練習なんかできないだろ。休め休め」
ふくらはぎの端を軽く突っついただけで声を上げるなんて、下手したら故障一歩手前かもしれない。
なにもしなくてもプルプルしてるし。
……………………………………………………やだちょっと可愛い。ぷるぷるするふくらはぎ可愛い。もっとツンツンしたい。
「すっごいサディスティックな顔してるわよ」
「休めって言ってるのにそれはないだろ」
このぷるぷるを眺めていたいというだけで。さすがに女の子のふくらはぎを余計にツンツンするほど肝は据わってない。……こいつの性格からすると、いつか百倍にして返されそうだし。
「怪我させるわけにいかないからな。さっきも言ったけど、無茶しすぎると体に返ってくるんだ。強制的にでも休ませる」
「でも!」
「俺は無理をして……一年もかけて、治療することになった。そうなってもいいのか?」
「――わかった……わよ」
人間の体は人それぞれ強かったり弱かったり、部位毎にも強度の差があると聞く。そして最も弱いところが最初に悲鳴を上げるのだそうだ。疲労を見逃してはならない。ぷるぷるふくらはぎさんは可愛いけどこれは明確な疲労のサインだ。
「あとな、今日は面白いものが見られるぞ。見学だけはしていけよな」
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