第2話 順番

 監督がグラウンドに立つと、ウォーミングアップと遊びを兼ねてそこら中でボールを蹴っていた選手達が、ぞろぞろと集まってくる。



「背番号配るぞー」



 集合したところで監督が言うと、総勢四十名を超える選手達が一斉に「はい!」と返事をした。


 U15ガールズ――女子チームとは、声の数も色も、随分と異なる。



「一番――」



 それから全員の名前が、背番号順に呼ばれていく。


 三年生の中には見覚えのある顔と聞き覚えのある名前が、幾つかあった。


 ただ、男女混成チームに参加している女子選手は少ない。


 瀬崎せざき結衣ゆいと、ゴールキーパーの三年生手島てしま和歌わか。そして同じく三年生で、守備の要となるセンターバックを務める守内もりうち真奈まなの計三名だ。


 次々と背番号と名前が読み上げられていく中、三年生の二人は二年生に混ざった辺りで、そして二年生の瀬崎結衣は二年生の最後のほう、一年生の少し手前でようやく名前を呼ばれた。


 背番号がスタメンを確定することはない。けれど、その数字はチーム内での序列を如実にょじつに物語る。


 サッカーは十一人で戦う競技だ。十一番までの小さい数字であればスタメンスターティングメンバーに近く、そこから離れれば離れるほど、遠い。


 二十番台の三年生二人と三十一番の瀬崎結衣は、U15混成チームの公式戦スタメンに名を連ねることが難しいだろう。


 年齢制限がU14(十四歳、中学二年生以下)であれば、瀬崎は……。いや、呼ばれた順で言えば、どちらにせよ厳しいか。



「うわっ、瀬崎のやつ三十番台だぜ」


「新人戦じゃ十番だったのにな。ま、女子が俺達についてこれるわけねえよ」



 うーん。あまり聞きたくない会話を耳にしてしまったなぁ。


 監督やコーチは前にいるから聞こえていないだろうけれど、俺は監督がよく見えるように選手の後ろへ陣取ったから、不意に彼らの陰口が聞こえてしまった。


 しかし俺に聞こえているのだから、瀬崎にも聞こえている可能性は高い。

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