3 女子チーム

第1話 日曜日!

 日曜は全年齢が練習日となる。


 もちろん全年齢を同時に練習させたら、グラウンドは埋め尽くされコーチも足りず、目が届かず、事故――大怪我――に繋がりかねない。


 だから丸一日使えることを活用して、朝から夕方まで時間をずらしながらグラウンドを利用する形になる。



 そういう事情もあって、今日は朝の小学校低学年以下、いわゆる『チビッコ』から最終となる『U15ガールズ』まで、全てを見ることになった。


 練習順は小学校低学年以下→小学校高学年→U15(中学生男女混成)→U15ガールズ(中学生女子限定)だ。


 小学生の練習を終えて、昼食(チサと合作の手作り弁当)を食べ、中学生男女混成チームの練習を準備する。


 途中、倉庫でソフィから声をかけられた。


 ソフィは事務仕事があるから、コーチとしては最後の女子チームの練習にだけ参加する予定だ。



「一昨日のチサト、凄かったね!」



 フットプロムをした翌日、金曜日の練習でチサは、瀬崎せざき結衣ゆいに全く引けを取らないプレーを見せた。


 何人かはチサの利き足が左だと知らなかったようで、激しく戸惑っていたが。



「ああ。本人も左足を使うことに納得してくれたし、伸び伸びプレーしてる感じだったな。今日の練習も楽しんでくれるだろう」


「ふふっ――。ケイタも楽しそう」



 楽しそう……か。そんな風に人から言われるのは、久しぶりのような気がする。



「楽しいよ。チサの才能は本物だ」



 言うとソフィは軽く微笑んで、「ケイタの才能も本物だと思うけどな――」なんて口にしてくれた。


 そう言われて悪い気はしないけれど、残念なことに自信には変わらない。


 チサやこれからのU15ガールズのことを考えるとワクワクできるのに、自分の復帰を考えると途端に心臓が縮む感触を得て辛く暗くなる。


 加えて、復帰するなら早く怪我を治さないと――という気持ちと、少しでも長くU15ガールズに携わってチームを強くしたい気持ちがぶつかってしまう。



「ところで、ソフィに調べてもらいたいことがあるんだけど」


「なに?」



 チサの低身長症について明かし、少し言葉を交わすと、ソフィは軽く驚きと戸惑いを混ぜながらも「パパに訊いてみるよ」と言ってくれた。オーナーなら各会の有力者と繋がりがあるだろうから、期待はできるかもな。


 そしてプレハブ造りの事務所へ戻る、ソフィとは一旦別れる。


 そのままグラウンドに足を向けると、混成チームの選手が集まりだしていた。


 混成チームを見るのは初めてで、今日は全てのコーチがいる。女子だけのU15ガールズに比べると圧倒的に大所帯だ。眺めているだけで壮観な気分になれる。



「お、瀬崎。そういや混成チームにも参加してるんだったか」



 俺は見慣れた横顔を見つけて、声をかけた。



「……何してるんですか。あなたは女子チームのコーチでしょう」


「勉強のために、今日は全学年を見て回ってるんだ。当然、この後の女子練習にも参加する」


「熱心ですね。そういうキャラでしたっけ」


「そうだな。サッカーに関しちゃ、どこまでも熱心でいたいと思ってる」



 熱心だ、と言い切れないのが少し寂しい。


 それでも……一週間前と比べれば少し、熱いものを感じるようにはなった。これが選手としての復帰に向けてのものなのか、女子チームのコーチとしてだけのものなのか、わからないけれど。あと一歩。本当にたったあと一歩の何かが、気持ちに足りていない。


 瀬崎結衣は深く溜息を吐いてから言葉を紡いだ。



「まあ、昔からそうでしたからね。あなたは――」



 そして、何かを言いかけたところで止めた。


 ただ俺にとっては聞き流しづらい言葉がある。



「昔から……って、じゃあ瀬崎は、俺のこと……」


「――――私にとってあなたは……。啓太けいたさんは、手本であり目標です。小学生になる前から、その背中をずっと追いかけてきました。でも…………。――――いえ、すみません、急にこんなことを喋って」



 少し驚いた。


 俺と瀬崎の間には、二学年の差がある。強い接点などないように思えたけれど……いつの間にか、目標にされていたのか。


 しかし、どうも瀬崎の様子がおかしい気がする。普段の高飛車な感じが消えていて、熱さも覇気も感じられないというか……。悪い意味で今の俺に似ていると思えた。



「何か、あったのか?」


「別に……。何でもありません」



 言葉では否定しているが、本当に何もない、という風には見えない。

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