第15話 フットサル
初日のミニゲームでは、十二人が六対六になるように言っただけで他は無指示。あくまで自主的なチーム分けを促した。
サッカーの技術は元より、俺は彼女達のことを何も知らない。性格や人間関係を実際に目で見ることで少しでも理解を進めたかった。
結果、一年生の
寺本千智や一枝果林は、あれだけ上手いのだから、きっと、少なくとも小学五年生の頃には一つ上の六年生チームに混ざって練習していたはずだ。それならば二年生は、二人の怖さを重々知っていることになる。
だからこそ敵対する側へ行き、一年経った今の力を確認しようとしたのかもしれない。
…………いや、でも
ならば一枝果林は違ったのだろうか……?
「まず赤のビブスがAチーム。寺本千智、
若干ゆっくりめに名前を読み上げる。
AチームとBチームの名称と区分けに意味は無い。それでも何となくAチームのほうが各上に感じるのが人間の性だ。
しかし意味はないと伝えさえしなければ、人はそこに何かしらの意図があるのではと勘繰りたがる。瀬崎結衣辺りは勝ち気な性格だから、自分がBチームで寺本がAチームというのは面白く思わないだろう。
発案者はソフィ。話を聞かされた瞬間には瀬崎が機嫌を損なわないかとか、それで更に寺本が萎縮してしまわないか、という危惧もあった。だがあくまでミニゲーム。移動中の車内で短い協議をした結果、彼女たちのことをより早く深く知るためにも、俺達は案を実行して瀬崎の闘争心を煽ることに決めた。
「次に青のビブスがBチーム、瀬崎結衣、
そして一枝果林を、瀬崎結衣と組ませる。
天性のストライカー気質だと思っていた選手が、実はパスの出し手との相性でそう見えていただけ――というパターンは割とあるんだ。
寺本千智と瀬崎結衣のプレースタイルは似ているけれど、決して同じではない。
というより、全く同じ人間が世界中のどこにも存在しないのと同じように、どれだけ憧れて真似をしても全く同じにはなれない。
良い意味でも悪い意味でも――。
寺本千智は、それを知る必要がある。
特にリズム感というものは人それぞれで微妙に違い、リズムの違いが生み出すズレはパスの出し手と受け手、双方にとって厄介なものだ。『あいつは突然パスを出す』とか『こいつはほしいと思ったタイミングでパスを出してくれる』とか、これはもう相性と言える。
もちろん、優れた出し手はある程度の調整幅を持っているものだ。瀬崎結衣の技術レベルを鑑みれば、その幅を中学生にして既に身に付けているだろう。だが性格性格を考えると、技術は持っていても『私の出したパスに合わせなさい』――と考えるような気もする。相手が一年生で寺本の相棒なら、尚更だ。
フットサルのような狭いコートでは、こういう小さなズレが顕著に表れやすい。
さて、どうなるかな。
五対五、控えになる一名との交代は三分置きの時間制。
轟々と雨音が響く市営体育館の、サッカーに比べればずっと小さなフットサルコートで、選手が思い思いの配置についた。
作戦や戦略を考える時間は、与えていない。
ピィ――ッ! と笛を鳴らすと、寺本千智がボールを蹴って試合が始まった。
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