第13話 チカ

あわわ…

アイミさんどこ行ったんだろ…


カケルがワールドと出くわしているその頃

レナは途方に暮れていた


えぇと…

あそこに赤い屋根の家があるから

あっちが皆のいたほうだよね…


………


あれぇ…?


レナは考える


しかし、考えなどまとまる筈もなかった


とりあえずこの町の中で

最も目立っているあのデパートに向かおう


先程の狂人に出会わなければ大丈夫だ


それに、あそこなら誰かいるかも知れない


そんな事を考えつつ

疲れた足で弱々しく歩く



………………



懐かしい


そんな気持ちになれる景色


自分たち以外には人のいない物静かな場所

なのにどこからともなくふんわりと漂ってくる

パンの香ばしい匂い

横道から吹いてくる涼しい風

ギラギラと照りつく太陽の光が緑に反射して眩しい

道の先には駆け回るには十分な山々が連なる


あの人との記憶が蘇る


大好きだったあの人


見知らぬ赤ちゃんを抱っこしたあの人


いつも笑っていて


お別れした時も笑っていた


そうそう


この道の角だ


この角を右に曲がったら八百屋さんがあるんだ


……角を右に曲がる


そこには見慣れた八百屋があった


やっぱり!


よくあの人と買いに来たなぁ

懐かしい…


嬉しさと同時に

涙が込み上げてくる


…もういなくなっちゃった


けど、最後まで優しかった


あの人もおじさんも


そんな事を考える


自分を庇って八百屋のおじさんは

目の前で奇形児に殺された


……………


地元料理店の店主も

行きつけの八百屋のおじさんも死んだ


知人が死ぬ


それは、まだ幼い心持ちの彼女にとっては

自分が死ぬよりも辛いことであるのは 言うまでもない



レナはふと考え、ある事に気付く



このゲームの参加者は知人が多い…


単なる偶然?それとも必然?



………

もし偶然ならば

彼女にとっては災厄と言わざるを得ないだろう



悪夢…


しかし

そんな負を連想させる言葉でさえも

彼女にとっては懐かしい思い出にすり変わる


そういえば、小さい頃、

怖い夢を見たら、あの人が一緒に寝てくれたんだ


懐かしいなぁ

ふふふ


思わず笑みが零(こぼ)れる


また一緒に買い物に行きたい

好きな男の子の話をしたい

家族3人で旅行に行きたい


…………………。


お母さん…

お父さん…


そう呼べる人はもう居ない


変わり果てた姿のお母さん、

変わり果てたお父さん、

変わり果てた自分



家族、その言葉には人一倍敏感であろう



……………


遠くから声が聞こえる


アイミさんだ!


ぉぉぉぉぉぃ


遠くから息を切らしなつつ

瓦礫の向こうから走ってくるお姉さんを

少し可愛く思いつつ手を振った



……………



デパートの2階、

カケルは楽器専門店の前に案内された


ギターにドラム、電子ピアノ、トランペットやチェロ

大型のデパートにしても多彩なラインナップである


音楽センスが無いとよく友達に馬鹿にされたが

楽器の形や重厚感、匂いも好きだ


田舎暮らしの長かったチカは、こういった店には無縁だったためか 上機嫌な口調で楽器を1つ1つ紹介してくれた


「まぁざっとこんな感じかな! 分かった?」


う…


正直言うと専門用語が多すぎて

後半はチカと後ろの男性2人の関係を考えていた…

何故あの大柄の男はあんな髪型なのか…

なぜもう1人はひよこのマスクをしているのか…


だが聞いてなかったというのは些(いささ)か失礼


ここは嘘をついておこう………


「あぁ ありがと 分かりやすかったよ

にしても、すごいな チカは…

楽器がよっぽど好きなんだな」


「そうなの! こういう所あんまり来れないから

嬉しくてさぁ えへへ」


「…チカちゃん、そろそろホールに戻ろうぜ

練習しねぇと日没に間に合わなくなる」


奇抜な髪型の男性がチカを説得するような口調で話す


「あぁ!そうだったね!

“ にちぼつ”までにカンペキにしたいもんね!」


に、日没?

まぁ確かに制限時間はあると言ってたが

何かするのか?


と、聞こうと思ったが、少し興味がある、

今はまだ知りたくない


「何だかよく分からんが

練習頑張れよ、チカ」


「うん!皆のち…アイドル チカ!

頑張っちゃうよ~!

楽しみにしててね♡」


頭の上に両手をうさぎの耳のように立て

腰を突き出しポーズを取る


キラリッ✧︎


……………


か、可愛い…


思わず見とれる…


い、いけない…


チカは元気よくエレベーターの方に走っていく


その後ろ姿はまるで小さい太陽だ


そんな事を考えていると

男性2人がコソコソと話し出す


「チカちゃんやっぱ可愛いよなぁ」

「ホントそれ!分かるわぁ

あの子とまだ一緒に居れるなんてマジ幸せ的な~」

「あぁ…ホント、チカには勿体(もったい)ないぜ…」


ん?


「おーい!

二人とも急いでぇ エレベーター来ちゃうよぉ!」


「あぁ 悪ぃ悪ぃ! 今すぐ行くよ!」


2人の男性は走っていく


チカには勿体ない?

どういう意味だ?


意味は分からないが呼び止めて聞く程でも無いだろう

モヤモヤはするが後で聞こう


きっと彼女達なら生き残れる



さてと、のんびりし過ぎた、仲間を集めよう


デパートに皆を呼び込もうとも思ったが

あの3人の邪魔はしたくない、

ここを離れるか、



デパートを出る



日は少し傾いた印象


まぁまだ夕刻(ゆうこく)では無いだろう


しかし、彼ら同様時間が無いのは俺も同じ


少し焦り出す


志村がいない、


レナもアイミも、


チカはチカでなにか作戦がある様だし

手出しできない…


思考停止寸前の脳みそにムチを打ち

必死に考える



地鳴りがする


!?



目の前の民家が突如として吹き飛び



瓦礫の山がカケルをめがけ飛んでくる

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