第12話 迷い込んだ者

ほとぼりは冷めない


むしろ激化した、と言うべきか


軍人がルール破りとも言える方法で目立ったからだ


参加者たちは焦り始めている


中には民家の窓や壁、道路を破壊して回る者、


自身の汚物を道端に放置している者、


スプレーで落書きした跡も幾つか見られだした



…………


しばらく歩いた…


迷子になった


元々いた場所に戻りたい気持ちはあるが

歩く度に景色が一変するせいで戻るに戻れない


自分の見切り発車っぷりを責めつつ背中を丸くし歩いていると、騒動の原因となった大型デパートの入口に到着した


ここだけは綺麗に残っている


皆 近寄りたく無いのだろう


しかし、近くで見るとかなり大きい


首の角度を90°上げるが

それでも屋上は見えない


デパートの大きさに感心していると

デパートの背後に隠れていた太陽がギラっと顔を出した


思わず目をクシャッと瞑(つむ)り 下を向く


瞼のうらにぼんやりと太陽の残像が残る



太陽の残像が古い記憶と重なる



少し嫌な気持ちになった


後悔の念…

あの頃程の熱意は無いが、今でも彼女を愛している


そう強く感じた、


彼女を早く見つけよう


強く瞑(つむ)りすぎて痛くなった瞼を開ける



目の前にはあの血まみれの外人が立っていた



体が凍る



脇を中心に全身に夥(おびただ)しい量の血を浴びている


カーキ色の厚手の軍服は血によって真っ赤に染まり

厚底の革のブーツにその迫力がより際立っている


外国人らしい銀色の髪に彫りの深い顔

鋭い眼光はエメラルド色に光っている


間違いない



この男だ


この男にレナを合わせてはいけない


身体中の毛穴が開き


冷や汗がとめどなく溢れる


オーラが違う


相手を威圧する禍々しいオーラ





「アー…エー…


ア、アナタ… イウ ナマエ…」



………。



は?


唐突なカタコトの日本語…


突然過ぎて聞いていなかった


震えていた膝がピタリと止まる



「ワ、ワカラナイ?

ナマエ!name!」



…答えるべきか?


困惑を隠しきれない…が

少しを距離をとりつつ自己紹介をする


「マ、マイネームイズ カケル アカガミ!」


………


英語は嫌いだ


………


沈黙する、伝わる訳無いか…

半ば諦めていた


すると、目の前の外人が笑いだす


「Hahaha! Sorry Sorry!

I appreciate the effort you made!

I’m Ugel World!

nice to meet you!」



………


英語のリスニングなど真面目に練習した事は無いが

唯一聞こえた文

「I’m Ugel World!」…

この男の名前だろうか


「ウーゲル、ワールド…」


緊張からの緩和で思わず声が漏れる


外人が再び笑い出す


「Oh!Yes!Yes!

My name is Ugel World!」


バンバンと背中を叩かれる


ど、どうやら合っていた様だ…


い、痛てぇ…

というか一撃一撃が重い…

本気で殴られれば命は無いだろうな…


笑い続ける外人…

今回ばかりは愛想笑いができた…


ある程度叩き終わると

イカれた外人は上機嫌な顔で

俺が通って来た道を歩いて行った



背中が痛い…


アイミの顔をふと思い出したが比べ物にならない


頭の真上を通り過ぎた太陽が眩しい


とりあえず中に入ろう、

第1ステージで走り回ったせいで喉が乾いた

何かあるかも知れない、


…そんな優しさが般若男(アイツ)にあるのか?


たまには何かを信じてみようか

適当な理由を付け自分を納得させつつ

中に入る



入口の先にはデパート内の地図が掲載されていた


1階から屋上を含めると7階建ての大きな建物…


いや、都会住まいの者からしたら大したことないのか…


そんなことをボヤボヤと独り言にしては大きい声で呟いていると

奥の方から聞き覚えのある声が谺響(こだま)する



あの煌(きら)びやかな衣装は間違いない

彼女だ

奥には楽器を持った男性が2人見えた


……………


野畑チカ(21)


知人の猛烈な勧めでアイドルを目指し中学一年生という若さで住み慣れた田舎を離れ母親と2人で上京


以来、全く連絡が取れずその後の動向については

村の役人たちでさえ詳しく知る者はいなかった



死んだ



そう陰で噂する者さえいた


しかしそれは

「あながち間違ってはいない」のかも知れない

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