第2.5話 吹雪山の奇跡

初めて会ったのは雪の日のこと


小学校の同級生たちといつもの様に町内を冒険していた


カケルたちの住む田舎では雪など珍しく無かったので

特に警戒することも無くはしゃぎまくっていた


もちろんその中にレナも居た


雪合戦に雪だるま作り、雪で遊べることなら全てやった

雪遊びのレパートリーに関して言えばノーベル賞ものであろう、と馬鹿なことを考えていた時期もあった


かなり遊んだ、 といっても正確な時間など知る由もない

ただただ垂れ流しのようにレナとカケルは遊び続けた


その結果辺りは白から黒へと突如として変化した


悪天候が災いして、日没に気づけなかったのだ



今更 足掻いても もう手遅れ、

そんな事は瞬時に判断できた



暗くて寒い、当時のレナとカケルからすれば

地獄以外のなにものでもない状況だ


震えながら明かりを探す


レナのすすり泣く声が聞こえる


カケルを不安にさせないようになのか

幼稚園児のころ 怪我をしたあの時のように

ワンワンと泣くことは無かった


………


暗闇の中にホワッと暖かい光が浮き上がる


うっすらと見える明かりをたよりに進むと

遠くに1軒の飲食店のようなものが見えた


その瞬間 ちっぽけな2人は ただ涙を流す機械に成り下がった

と、嫌味たらしく語るが まだ物心ついて間もない子供にとって

この明かりは地獄に差し込む一筋の光と同義であった


疲れた足が止まらないように

互いに支え合いながら飲食店を目指す



店の前に着くと

タイミング良くガタイのいい店主が

店じまいのために 奥からぬぅっと出てきた


ビクッ!と体が跳ね上がる


店主は暗闇の中で震える2人に気づく


「どうした?君たち」 と、柔らかい声で事情を聞いた


レナはカケルにしがみつき

カケルは今にも泣き出してしまいそうになりながら

震える声で口を開いた


「た、たしゅけて…… くだ…しゃい…」


鼻は 寒さが原因か はたまた涙が原因か 赤くなり

顔は寒さで まさに顔面蒼白といった感じであった


慌てた店主は2人を早急に店の中に入れ 暖炉の近くに2人を案内した 2人は身を寄せあって暖炉の前に座った


店主は笑いながら厨房に戻ると 気前よくスープやパン、その他様々な料理を2人に振舞ってくれた


………


しばらくして落ち着きを取り戻した2人に店主は

何処に住んでいるのか、両親の名前や

通っている小学校などを聞いた


2人はゆっくりと店主に話し始めた


店主が2人の通う小学校に連絡すると

ものの数分で先生を数名引き連れた 防寒具すら纏わない 2人の両親が子供たちと熱い抱擁(ほうよう)を交わした



店主、先生方の笑顔と カケル、レナ、その両親の泣き顔は

正反対のものであったがその空間にはなんの矛盾もない


吹雪の山奥、そこで起きた奇跡は 後にメディアで大々的に報じられ、雪吹き荒れる田舎村に注目が集まった


しかし、この事件をきっかけに 子供の外出に厳しい規制が掛かってしまったのは 云うまでもなく、その事に関して2人は非常に反省し、 後輩達に深々と謝罪した

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