第10話 嵐の前の静けさ

……………


ふと目を覚ます


大きな背中


心地よい揺れ


誰かに背負われているのか…



ぬるい懐かしさを感じる…


しばらくはこのままが良いな


そう心の底から思えてくる


……………


目が覚めたら元の世界に戻っているのではないか


薄れゆく意識の中そんな事をぼんやりと考えていた


その願いは叶わなかったわけではあるが


今はそんな事どうでもいい気がしてきた


ただの安息感 それが何よりも心地よかった



途端に揺れが止まる


どうやら俺を背負っている者が

足を止めたようだ


わざとらしく唸ってみる


もう自分で歩けるという間接的なアピール


どうやらそれを感じてくれたようだ


俺を背負っている者

それを取り囲む者が少し騒がしくなった


「大丈夫?カケル」


心地よい声が耳に届く


何度も聞いた彼女のセリフ

背負われているのと相まって

懐かしさが加速した


次に聞こえてきたのは

俺を背負っている大男の野太い声だ

「大丈夫かな? 歩ける?」

恐らく志村であろう…


出来ればまだおんぶしておいて欲しいが

そんな子供のような姿

レナや志村には見せられない


俺は「大丈夫です 歩けます」と

寝ぼけた甘い声で言った


実際そんな声を出そうと思っていた訳では無いが

どうやら余程 長く眠っていたようだ

呂律が回らない


ゆっくりと降ろされる


ふらつく足

立てないことは無いが

目の前の景色が歪み体がふらつく


足を肩幅より少し大きく開き

重心を安定させる


大きく伸びをし

眠気を吹き飛ばす


『はいはい これで皆起きたねぇ

じゃあ 第2ステージのルールを説明するよん♡』


甲高く薄ら寒い声

どうやら俺は般若の男アレルギーのようだ


イマイチ視点が定まらない

朦朧(もうろう)とする意識の中聞き覚えのある声が

寝ぼけた俺に話しかけてくる


「カケル君だよね?」


唐突なことにかなり驚いた

田舎村出身で唯一連絡が取れていなかった

チカが今目の前に居る


「チ、チカ!?」


思わず声が上ずる


無理もない中学のとき 急に転校してから

7,8年ぶりの再開である


レナにも伝えねば、とも思ったが

どうやらもう既に出会っていたようだ


自分だけが取り残された気がして

あまりいい気分では無かった


……………


チカは明るい性格で

男子から人気があったらしい

人当たりがよく 大人たちからも大事に育てられていた


彼女が今着ているような煌(きら)びやか かつ

ド派手な衣装が似合うのは

明るく、容姿の整った彼女くらいであろう


…ジロジロ見過ぎたのか

チカは頬を赤らめ、たじたじになっている

ふと我に返り、セクハラ気味の視線を送っていた

自らが恥ずかしくなり目線を逸らした


レナがこちらを見ていた…

レナもチカと話したいのだろうか…


志村に呼ばれる


振り返ると般若の面の男が

俺達の連れてこられた第2ステージとやらの

施設説明をしていたらしい


辺りにはデパートや民家

学校、病院、広大な山々などが広がっている


人が居ない、という点を除けば

現実世界に帰ってきたのかと錯覚するような

見覚えのある穏やかな景色である


般若の男が話し続ける


『さてと、施設説明はこんなもんかな…

じゃあ 次はゲームの説明をするね

え~と…どうしようかな…』


少し気だるそうに考えている


ポケットから名簿のような物とペンを取り出す


どうやら先程死んだ者をチェックしているようだ…


そして顔をゆっくり上げ


『先程の選別(ベビーシッター)では

漁師、エンジニア、コック、八百屋、芸人が死んだみたいだね…』


何故名前や番号では無く

職業で呼んだのか、その時はまだ意味が分からなかった…


般若の面の男はリストとペンをポケットに再度しまい

手を大きく広げゲーム概要を話した


『先程死んだ目立ってなんぼの職業、芸人さんになぞらえてぇ

今回君たちには大いに目立って貰おうと思いますぅ

目立つ方法は様々、破天荒な事をしてもいいし

ずっと踊り続けてもいいし、全裸で走り回っても目立てるね』


『制限時間は… 今が10:30だから…

約30分後の11:00から明日の11:00までにしよう』


『死ぬのは…どうしようかな…

分かりやすくポイント形式にしよう!


目立ったポイントでランキング付けて

下から順に殺す事にしようか!


ランキングに応じて何かご褒美も考えておくよォ!』



第2ステージは目立つだけ、単純な内容


ランキング形式で報酬がある、となれば

当然、手段を選ばなくなる者も出てくるだろう


………


しかし、あの男の様子から見るに

咄嗟に考えたゲームなのだろうが…

死んだ参加者の職業になぞらえた、というのは

少し引っかかるが、


唯のこじつけか?


そんな事を考えていると般若の面の男が声を荒らげ

怒鳴るようにタイトルコールを始める


『それでぇはぁぁ!!!

第2ステージィィィィ!!!』


『目立って ナンボマンボ!!!

スターーーートッ!!!』



腹の底から異物のような物が逆流したのを堪えつつ

般若の男を強く睨み、反骨心を静かに見せた


しかし、そんなちっぽけな勇気など

奴は気付くことすらないのであろう…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る