第9話 電光石火

俺は何故死ななかった?

何故無傷だった?

今もそうだがもっと前…


志村に投げ飛ばされた時だ


あの奇形児は志村の柔道技で絶命し、

頭部は破壊され四肢はボロボロになっていた


それに比べ、俺は死なず、まして無傷

不可解である


志村は咄嗟に取る行動ゆえ手加減は出来ないと話していた という事はあの奇形児の耐久力とは比べものにならないものを何故か俺が持っている


確かにあの奇形児の耐久力は未知数、

しかしそれを踏まえても、かなりの耐久性を有している事は云うまでもない


他にもあったレナを逃がすとき

女であるレナに足の速さで負ける気は無いが

それにしても、あまりに追いつくのが早かった…



なぜ?



その答えは1つ


俺と同じ番号を持つ赤子人形が

選別(ベビーシッター)開始直後に

俺以外の別の何者かに殺されたということ


どんな能力かは分からないが

耐久型かつスピード補正の可能性が高い

もしそうならある程度の特攻も許される…


どうせ死ぬならという重い気持ちに反する

口角の角度


やれやれ ようやく俺も狂えて来たか…


レナは助かったかな…


そんなことを考えつつ瓦礫の山から顔を出す



辺りを見渡すと

先程の化け物は俺に興味を無くし別の者を探しに行ったようだ 緊張の糸がスルッと緩まった

あくまで緩まったというレベルであり

緊迫状態である事は間違いない


重そうな瓦礫だったが見掛け倒し

軽々とどかし 汚れを払った



成人男性のけたたましい叫び声が静寂の世界に響く


固唾を飲み身構える


遠くから数体の死体を持ったあの化け物やってくる


まずい


見つかった


特攻などと言ってはみたが

そんなものが正解などとは思っていない


このままなんのほとぼりもなく逃げられるのなら

願ったり叶ったりであった


死体を投げ捨てた化け物は無言で突進してくる


あの程度のスピードなら直線でも逃げ切れるだろう


しかし、門(ゴールゲート)は閉まっている

直進すればあの奇形児共と化け物の挟み撃ちである



しかし、遠回りすればより強大な猛者に出くわす可能性がある 門(ゴールゲート)が開く、その時まで、出来ればここで立ち往生していたい


そんな生半可な気持ちでは生き残ることは出来ない…



瞬き



瞬き



目の前に



物体が飛んできた




疑問と答えが同時に襲う



男の死体だ



頭と胴と四肢



バラバラになった肉塊が



顔の横を通り過ぎる



血の気が引く




驚いた、それ以外の感情は持たないようにした



下手な事を考えれば


ヤツとは戦えない…



100m以上先にいた化け物ももう間際である



門(ゴールゲート)の方を向く



すると



タイミングよくけたたましい音を立て



門(ゴールゲート)が開く




全身の体温が急激に上がる



急げ



無我夢中で走った


自分以外の誰かが来るかもしれない


そんな事を考える事などない


命取りである


化け物は加速した


参加者を殺すことが目的の化け物にとって


参加者のゴールを見届けることなど


職務放棄以外の何物でもないからである



だがカケルも死ぬ訳にはいかない


走る


走る


そこら中に居る他の奇形児を蔑(ないがし)ろにしつつ


門(ゴールゲート)に飛び込んだ


その光景(はラグビーのトライ宛(さなが)らであった


化け物は諦めたのか門(ゴールゲート)の前で静止した



助かった…筈…


大きく息を吐き

強ばった体の力を抜く




『あら 来ちゃったの』


甲高く聞にくい声が耳に届く


視線を目の前にやると


般若の面の男が立っていた


言いたいことは沢山ある、が

今はもう疲れた…



薄れゆく意識の中

レナと志村の声だけがぼんやりと耳に届いてきた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る