第8話 護るべき者

目の前の化け物 火力はありそうだ

しかし、機動力という面においては皆目検討がつかない


ごつい上半身には似つかわしくない貧相な下半身

パッと見、鈍そうではあるが


そんな常識が通用するとも限らない


あの化け物とは距離を取りながら動こう

近接戦闘において間合いは重要だ



門(ゴールゲート)が開きしだい作戦を決行する

こんな危険地帯にレナを長居させたくない


ふぅと息をゆっくりと吐き 高ぶる感情を宥(なだ)める


大声を出すか

瞬きをしておくか

右足と左足、どちらを先に踏み込むか


どうでもいいことを考える余裕は出てきた


大丈夫、大丈夫、大丈夫

心配無いよ 死ぬ訳ないじゃん これは悪い夢

背負い込んだ十字架を破壊して

鈍い記憶とサヨナラするただの儀式


歪む視野の中に

無情に開門する門(ゴールゲート)が見える


気にかけてやれていなかったレナの方を見る

作戦概要を大まかにしか知らないレナは

やはり不安そうな表情を浮かべている


レナの背中をポンと叩き合図を送る


2人は同時に深呼吸をする


吸って


吐いて


先程まで歪んでいた景色はハッキリとしてきた



化け物が視線を逸らしたその瞬間


レナが走った


その後に続いて俺が走る



事は出来なかった


何故だ?


躊躇が出た?


見知らぬレナが遠ざかって行く


嫌だ


そんな子供みたいな事を言ってる場合じゃない


悔しさが浮き上がってくる


歯を食いしばり


足を殴り


最後に顔を殴った


気合いは振り切れた



絶対護る



足を力強く踏み込む


走る


10メートル弱離れてしまっているレナに

俺は瞬時に追いついた


過去一の速さ


自分でもこんなに早く追いつけるとは思わなかった


さぁ作成開始だ


作戦としてはレナを最優先に門(ゴールゲート)に走らせ

その後に盾となる俺を配置する


化け物の注意を引き付けるためだ


建物の陰から飛び出す


瓦礫を蹴り飛ばした音と同時に

化け物がこちらに気づいた


一切の声をあげず急接近してくる化け物は

決して素早いとは言えないが

着実に対象に恐怖を与えることを計算されたかのような

薄気味悪い体の構造をしている


レナは前を見て走る


俺は後ろを振り返り化け物と対峙する


……………


何だかこの状況は

昔の俺とレナの関係性を表してるようだなと

少し感慨深くもなった


自然と笑えてくる

何故だろう、今死ぬからか?


そんな訳ないだろ


時間稼いでから死なないと意味が無い



レナは少し高い靴を脱ぎ捨て裸足で走る


足裏は血まみれで

泣きそうになるのを必死に堪える


足の感覚は鈍り

痛覚だけが脳に伝わる


息も絶え絶え


奇形児が待ち構える門(ゴールゲート)に

一切の迷いなく突撃する


奇形児達は彼女を素通りさせた


彼女は死にものぐるいになりながらも

門(ゴールゲート)をくぐることが出来た


下半身が血まみれの彼女を他の参加者

特にアイミが手厚く迎え入れ、奥で休ませた


門(ゴールゲート)前に彷徨(うろつ)く奇形児達

どうやら人間に反応してはいるが

どうこうしようということは無いようだ


ゴールした者には攻撃しない

もしくは門(ゴールゲート)には入って来れないと考えるのが妥当であろう




カケルは諦めかけていた


門(ゴールゲート)の次の開門まで時間がある


なにか打開策は無いものか、と


せめて一矢報いたい、と


吹き飛ばされた先の瓦礫の中

そんなことを考えていた


しかし生身の人間ではそれは叶わない…


俺にも志村のような能力があれば…


そんなことを不意に考え

これまでの経緯を振り返っていると

とある違和感を覚えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る