第7話 勇者さま

生暖かい不気味な肉塊を二人がかりで窓から落とす


どちゃっ という泥袋の様な鈍い音が聞こえてきた


奇形児はまず間違いなく絶命しただろう


ホッと胸を撫で下ろす


さて、志村には聞かなくてはならないことがある 奇形児の技が使えるようになったという戯言の真相である


先程の奇形児の能力といえば水を勢いよく発射する

というものだが、何故コイツがそれを使えるようになったのか

もしや、それがあの般若の面を被った男の言う

アイテムとやらなのだろう


コイツが倒したから?

死んだ赤子と振り分けられた番号が同じだったから?


明確な答えは恐らくコイツも知らない

だが、般若の面の男の説明を信じるのならば後者であろう


とは言っても志村の気が動転している可能性も十二分にあるのでもう少し様子を見てみることにしよう



……………



やはり静寂

先程まで慌てていた自分が馬鹿らしくなるほどに


あれからかなりの時間が立ち

それに比例して多くの者が門(ゴールゲート)を通過した


志村の言う能力とやらが本当なら

別に志村は逃げ出してもいいのだが、それをしようという素振りは見せない


根はいい奴なのだろう…


第一、俺にあの奇形児を殺せる術がない

オマケに自身の番号すら分からないのに、

コイツを付き合わせてしまっているのは申し訳ない…


ここはコイツに提案しよう


逃げるぞ と


レナに暴力女、他の見知った顔の者達も心配ではあるが

こんなイカれた世界に同情などいらない


「あの 志村さん」


「? どうしたんだいカケル君」


「もう 逃げましょう」


志村は一瞬驚いた表情を見せたが

俺の目を見て察してくれたのだろう


長居はハイリスクであり、間違いなくローリターンであるというこの現状を



互いに分担して四方を見渡す

階段を慎重に降り

ビルの外に出る

奇形児はいない


今がチャンス


俺と志村が駆け出した


その時


「きゃぁぁぁ!!!」


心地よくも甲高い声が耳に届く



レナだ


あの姿でレナの声を出されるのは

何か腹立たしさのようなものを感じたが

声だけならばそんな事は有り得ない


全速力の志村はその大柄な体躯(たいく)を門(ゴールゲート)にねじ込んだ


無事、奇形児に見つかること無くゴール


門の先には血を浴びた外人や、すすり泣く女など

様々な人間が他の参加者のゴールを待っていた


しかし、志村は気づく

盟友であるカケルの姿が無い


ハッと振り返った志村だが門(ゴールゲート)は既に閉まっていた




志村の優しさを一蹴したカケルは無我夢中で叫び声のした方角へ走った


そこにはやはり先程の女がいた

震える金髪の女、いわゆる親の顔より見た

というやつなのだろう、変わり果てた髪ではあるが

直ぐに誰か分かった


どうやら無傷だ

近くには筋骨隆々な大男が立っている

しかしその大男は明らかに普通の人間では無かった

恐らく例の奇形児が膨張した物であろう


気づかれないよう遠回りをしてレナに近づく


「レナ」


名前をか細い声で呼ぶと

直ぐに顔を上げ反応した


そこには泣きじゃくるあの頃のレナが

体育座りをしていた


怯えるレナにゆっくりと状況を聞く


どうやらあのデカい奇形児は近接戦闘タイプ

投石はあれど、先程の水使いのような遠距離に特化した攻撃は無いらしい



そこで俺は1つの作戦を思いついた


いや、実際には作戦などと呼べるものでは無い


ただの陽動作戦

いわゆる囮だ、

明確にその作戦についてレナには話さなかった

なんせ、話せばこんな作戦など了承してくれる筈も無いからだ



しかし、今の俺ならレナのために死ねる


自分の中で「今の俺なら」というワードが引っかかった

当然の事の筈なのに 大きな違和感を感じた


まぁ人の感情などそんなものなのだろう


少しニヤけた口を静止しつつ

1歩前に踏み出した

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