第10話
「おっぱいおっぱい」
Tはビンビンに
母乳美女は激しく上気した顔で、ぽってりとした肉厚の唇を開き、そこから白く輝くエナメル質の前歯を覗かせ、かぐわしい甘い熱い息を吐き、黒い濃い睫毛で囲まれた大きな瞳を
Tは二人の目の前まで進むと、すっとしゃがみこみ、片手で蚊藤の頭を
めきめきと音を立てるように指がくい込んでいった。
「かはっ」
あまりの激痛に蚊藤が口を離した瞬間、その体ごと美女から引き
美女はTの荒々しい飲乳で体を揺らされながら、きかん坊をあやす母親のようにどこまでも優しくTを抱え、思いがけずアイドルに求愛された追っかけおばさんのように歓喜していた。
「おっぱい美味しい?」
「うん」
「ママのおっぱい美味しい?」
「うん」
「嬉しい! それにとっても気持ちいいわぁ。ママのおっぱい、いっぱい、いっぱい 飲もうね」
「うん」
「いい子いい子……坊やはいい子ねぇ」
「うん」
Tはスッポンのように美女の巨乳首に食らいつき、決して口を離すことなく鼻で返事をするのだった。
壁に叩きつけられ顔から絨毯に激突した蚊藤は、死ぬ寸前のゴキブリのように這いつくばりながら、いきなり背後から試し斬りされた江戸時代の町人のような理不尽を味わっていた。
ちなみに、いったん飲乳行為に入ると、その間は完全に痴呆化し何もわからなくなる乳ボケ老人蚊藤が正気にかえったのは、Tに
こいつは片手で軽々とわしを壁に叩きつけおった……なんという怪力!
悦子は、Tの体をマッサージするように両手で撫で回し、さっきまで蚊藤にしていたようにときどき擽り、Tが擽られる度に軽く痙攣するとクスクス笑っていた。
「ぬくくく……お、おのれ……」
自分が死ぬまでの間授乳させるために手に入れた母乳奴隷・悦子(二十九歳)が、自分に完全服従して身も心も捧げてくれていたはずの悦子が、今目の前で、いきなり現れ自分に
生まれたての子鹿のように四肢をがくがくさせながら、ようやく立ち上がった蚊藤は人間の手足が生えたゴミ虫のようであった。
「きさまあっ! どうやってここに入った! 何が目的だっ! わしにこんな真似してただで済むと思っとるのか!」
見かけからは想像もつかない迫力あるだみ声でTを怒鳴りつけた。
元Z務事務次官にして、現在も名前だけの大企業顧問、政府系金融機関総裁、大手地方銀行頭取として破格の報酬を得ている、勝ち組の中の勝ち組のみが出せる声であった。
普段、悦子との会話においては「ばぁぁぶぅ」「はぁぁい」「ちゃぁん」しか喋らない蚊藤の、これが凶暴な本性であった。
「おい! おまえっ! わしの質問に答えんかぁっ! ぐがっ」
何かが蚊藤の額にぶち当たり今度はあお向けにひっくり返った。
背中と後頭部を強かに打ち、息が詰まり目の前を星がちらついた。
「く、か、こ……」
気力を振り絞りやっとの思いで再び立ち上がった。
足下を見ると罅の入ったガラガラが転がっていた。
な、なんだとぉ~っ!
Tに授乳していた悦子が
悦子! おのれは~っ!
一年前、丸の内にある企業で出産後すぐに働き始めていた悦子は、極上の母乳奴隷を探していた蚊藤の
まず些細な仕事のミスを理由に悦子を解雇させた。
次に悦子の夫にハニートラップを仕掛けセックス動画を撮り、それを悦子宛で自宅に送りつけた。
修羅場になるや夫はハニートラップの相手に
悦子には新婚早々夫婦で購入したマンションの三十五年ローンが残った。
同時進行で悦子の両親に詐欺を仕掛け全財産を奪い、その数日後事故に見せかけ実家ごと焼き殺した。
悦子は乳飲み子を抱えて経済的にも精神的にも孤立無援の状態に陥った。
そこへ蚊藤の提案が届いた。自分の世話をするなら全て面倒を見ると。
こうして悦子は蚊藤の母乳奴隷になった。
乳飲み子は女の子だったのでアメリカに養子にやった。
男の子だったらどうしていたかは言うまでもない。
いやはっきり言おう、男の子だったら問答無用で殺していた。
母乳奴隷の
その悦子が蚊藤に牙を剝いた。
「悦子っ! きさま何さらすんじゃ!」
悦子は蚊藤に見向きもしないで、うっとりとした顔でTに授乳している。
ガラガラを投げつけたときでさえ、蚊藤を見ていなかったかもしれない。
「おいっ! 悦子っ! きさまわしにどれだけ恩義があると思っとるんじゃ!」
実際には恩義など何もなく、蚊藤に罠に嵌められて母乳奴隷に身をやつしているわけだが、しかし悦子には蚊藤の声は全く届いていないようで あった。
聞こえていないわけがなかった。
聞こえているが、完全に無視を決め込んでいるのだった。
「こ、この……」
信じられなかった。
いきなり職場を首にされ、幸せな新婚生活を壊され、実家ごと両親を焼き殺され、愛する乳飲み子も取り上げられ、それでも生きるために蚊藤の母乳奴隷として忠誠を誓った悦子であった。
一度だけ蚊藤は
そのとき悦子は身も世もない有様で額を絨毯に
その悦子が蚊藤の
女がこういう態度になったらもはやどうにもならないことを、開き直った女の
はらわたが煮えくりかえるようであったが仕方がない。
この女は廃棄処分だ。しょせん乳だけが取り柄の卑しい下級国民だ。過去わしを
薄情な高級官僚あがりらしい残忍な発想にして素早い気持ちの切り替えだった。 そうと決まれば次はこの
こいつは一体何なんだ? どうやってここに入った? 気づいたときは全裸で目の前にいたが、部屋中を見渡してもどこにもこいつの服がない。まさか素っ裸でこの部屋に入ってきたというのか?
考えれば考えるほど頭が混乱してくる。
要塞のような邸宅の地下にある、この悦子との乳まみれの生活を送るためだけに作った完全防音の特設キッズルームには、一日三回の食事が差し入れられるとき以外は滅多に人の出入りはない。
確かに飲乳中の蚊藤は完全に痴呆化し、周囲が全く見えなくなっている。
だが階上にいる配下の者たちが見ず知らずの人間を階下に通すはずがない。
透明人間か、あるいは瞬間移動でもしなければ入ってくるのは不可能だ。
透明人間? 瞬間移動だと? 馬鹿馬鹿しい。それにどうせ次の食事の差し入れのとき、こいつは死ぬことになる。
ついさっき十二時の差し入れがあったばかりだった。
蚊藤はほぼ母乳のみの食生活だから必要ないのだが、悦子は母乳の出を良くするために餅を使った料理などを午前七時、昼の十二時、午後五時に差し入れてもらっている。今日の昼食は
それらが
そろそろ悦子が食事を摂るために授乳を中断しようとしているところにこの男が現れたのだった。
だがあと四時間半以上も待っているつもりは毛頭ない。
部屋の壁に描かれているデフォルメされた絵の中に紛れて、非常ボタンが設置してある。
それを押せば直ちに配下の
フルコン空手の有段者たちだ。
この母乳横取り野郎はただでは殺さぬ。
蚊藤は背後の壁を向くとデフォルメして描かれた動物たちの中から白い兎の絵を探した。
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