第6話
それにしても始まったばかりとは言え村西は少々疲れた。
このTという男の凄まじい
犯行の動機づけとしては理解できた。
要するにこのTは、自分の惨めな失敗人生の怨みつらみを、世間から特権階級として妬み恨まれているZ務事務次官殺しという形で悪の昇華を行ったのだ。
悪の昇華とは我ながら言い得て妙だが、むざむざ殺された側がそれで納得も許すはずもない。
残念ながら世間では九割の日本国民が、今回のこの男のしでかした歴代Z務事務次官連続殺害事件に
国民の
そのくせ自分たちは一切
官僚の片棒担ぎで増税する政治家は、ときには怒り狂った有権者によって、その
だが増税司令の本部Z務官僚たちは政治家と違って選挙で落とされることもない。
外国ならとっくにテロの対象になっていそうなものだが、島国日本ではそんなことを考える者は星の数ほどあれど、実行するとなると皆気が引ける。
それはそうだ。
やったら周りは拍手
だが、この男はやった。
「それで歴代のZ務事務次官を殺しその家族を強姦したのか」
唐突に、村西はズバリ核心を突いた。
それはTVで水戸黄門が、
そういうことだろう。おまえの失敗人生の泣き言、
この言葉を口に出さないところが村西の優しさであった。
もっともTにとっては心で思ったことも口に出したと同じであったが──
「それで? いきなり話が飛ぶな」
Tは愉快そうに笑った。
「だがまぁ、そういうことだ。オレの人生は終わった、今更もうどうにもならない。さて、どうする。もうどうにもならないがどうする。まぁ今の世の中、昔と違って不幸な奴らが多すぎる。それを見てオレだけじゃないと気休めをして残りの人生を生きていくこともできなくはない。だが、そんな不幸を嘆く連中にしたって、ときめくような、輝くような青春ってやつを味わっているはずだ。オレにはそれがない。オレは本当なら、アホ親に洗脳されずに自分に素直に生きていれば、中一のときから彼女ができて、気まぐれオレンジロードみたいな甘酸っぱい青春を、やるっきゃ騎士みたいなちょっとませたじゃれ合いも、普通に大人がやっているような恋愛ですら厭きるまで続けられた。そうだ、思い出した。オレは最初に言ったな? 刑事さんあんたに『十三歳でセックスしたら何が悪いんですか?』と。条例だなんだ人間性を無視したものはとっぱらってあんたの本心を聞かせてくれ。十三歳でも男子が精通、女子が初潮を済ませていれば、その二人がお互いを心から愛していて合意があればセックスして何か悪いことがあるか?」
「ないな。それが真実の愛ならば。ただ心から愛し──と言っても、そのときは本気でそう思っていても一時の愛の場合も多々ある」
「それはそうだ。だが、大人だって真実の愛なんか滅多に見つけられるもんじゃないだろう。オレはこう思う。この国の支配層の子供たちでもない限り、童貞処女を後生大事にとっておく必要なんかない。そういう家柄の子供たちなら、結婚するときに童貞はともかく処女であったほうが価値が高い。だがごく普通の家庭なら、子供の自主性に任せて好きにさせたらいい。真実の愛かただの性欲かそんなことはどうでもいい。要は妊娠した場合の世間体や、女子の場合はそこで休学など学業に支障が出ることが問題と言えば問題なのであって、そんなものは避妊すれば済む話だ。避妊しろ。避妊だけはして、あとは好きにひっつきはっつきさせておけばいい。楽しめるときに楽しまずして何が人生だ? どう考えたって男と女はセックスするために生まれ、勉強だって仕事だって究極的にはセックスのためだ。よりいい相手を手に入れるための勉強、仕事だ。だったら十三歳でセックスする相手がいたらするのが当たり前、それを止める親は救いようのない、物事の本質のわかっていない究極のアホだ。そうは思わないか刑事さん。オレは間違ってるか?」
「本題に戻ろうか」
村西はおもむろに口を開く。
脱線しかけた話の流れを元に戻す。
もうたくさんだ。
上からの指示があろうが、これ以上Tの戯言に付き合う気はなかった。
「一体どうやって殺す対象を決めた? どうやって彼らの家に侵入した?」
Tはその鋭く大きい目付きをした
「これ以上オレの戯言に付き合う気はないってか。そりゃそうだ。こんなしょうもない話、聞いてるほうとしちゃあ、いい加減、忍耐の限界だよなぁ。以上、連続殺人アーンド強姦をする前のオレの心境の吐露、ご
以下の記述は島田記録係の調書に基づく。
というのも、Tの証言をそのまま載せるのは余りにも生々しく、おぞましく、不必要に官能的になってしまうからだ。
超凶悪殺人鬼の極めつけのグロエロ話──なぜグロが先なのか、それはグロ度九〇パーセント、エロ度一〇パーセントだからだ──を股間をいきり立たせ、またはしとどに濡れそぼらせながら読んでしまっては、読者としても人間失格になったようでいたたまれまいと思っての配慮だ。
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