3
翌週の金曜日。綾香は再び愛を買った。
日曜日の夜に綾香が送ったメッセージは、水曜日の夜に既読が付き、木曜日の夜に返事が返ってきた。
愛の素っ気ない返答に心を痛めながらも、綾香は諦めることが出来なかった。
縋る想いだった。どうにかして、またあの日のように戻りたい。
愛がくれた言葉を思い出す。その度に、綾香は涙を流し、寂しさを紛らわすようにアルコールを浴びた。
「行こっか」
明らかに不機嫌な愛の手を引き、二人は夜の街を歩く。さすがに迷惑だったかと、綾香は心配になる。それでも愛は何も言わなかった。きっとまたあの頃のように戻れる。そんな願いが綾香を突き動かした。握った手から伝わる彼女のぬくもりを零さないように、綾香はしっかりと手を握る。
繁華街を抜け、先週と同じホテルで受付をすませた。部屋に入り、相変わらずの高級感溢れる内装に感服すると、綾香は財布から一万円札を三枚取り出し愛に渡した。
愛は無言で三万円を受け取り、その場で立ち尽くしたまま口を開いた。
「……どういうつもりですか」
苛立ちが含まれる、小さな声。
胸が痛みながらも、綾香はバックからチューハイとビールの缶を取り出す。
「今日は、一緒に呑みたいなって思って」
戸惑う愛に、綾香は笑顔を向ける。
「あ、酔っても何もしないから大丈夫だよ」
優しい声で話しかける綾香に、
「帰ります」
愛は冷たく言い放つ。
「お金、返します。ホテル代も置いていきます」
手に持つお札をベッドに置き、愛は自身のバックから二万円を取り出し、乱暴に重ねて置いた。
綾香は咄嗟に愛の腕を掴む。
「待ってよ……何か気に障ったなら謝るから」
愛は絢香を冷たい目で見つめる。そういえば、と小さな声で呟き、
「別れてください、綾香さん」
拒絶するように言った。
綾香は固まる。
「……どうして」
愛は淡々と続ける。
「飽きちゃいました。やっぱり男の人じゃないと満たされないみたいです。大学の先輩と付き合います」
それは綾香を絶望の淵に落とす言葉だった。
「なにさ……それ」
無意識に涙が零れた。
「いい歳なんですから――」
愛は俯く、ゆっくりと顔を上げて、はっきりと口にする。
「ちゃんとした男の人を探してください。今までありがとうございました」
愛は綾香に背を向けた。ゆっくりと愛の腕を握る手が離れる。
愛は背を向けて歩き出す。愛の姿が見えなくなるまで、綾香はその背を眺めた。
ひとり取り残された部屋で、綾香は力無くその場に座り込んだ。
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