翌週の金曜日。綾香は再び愛を買った。

 日曜日の夜に綾香が送ったメッセージは、水曜日の夜に既読が付き、木曜日の夜に返事が返ってきた。

 愛の素っ気ない返答に心を痛めながらも、綾香は諦めることが出来なかった。

 縋る想いだった。どうにかして、またあの日のように戻りたい。

 愛がくれた言葉を思い出す。その度に、綾香は涙を流し、寂しさを紛らわすようにアルコールを浴びた。

「行こっか」

 明らかに不機嫌な愛の手を引き、二人は夜の街を歩く。さすがに迷惑だったかと、綾香は心配になる。それでも愛は何も言わなかった。きっとまたあの頃のように戻れる。そんな願いが綾香を突き動かした。握った手から伝わる彼女のぬくもりを零さないように、綾香はしっかりと手を握る。

 繁華街を抜け、先週と同じホテルで受付をすませた。部屋に入り、相変わらずの高級感溢れる内装に感服すると、綾香は財布から一万円札を三枚取り出し愛に渡した。

 愛は無言で三万円を受け取り、その場で立ち尽くしたまま口を開いた。

「……どういうつもりですか」

 苛立ちが含まれる、小さな声。

 胸が痛みながらも、綾香はバックからチューハイとビールの缶を取り出す。

「今日は、一緒に呑みたいなって思って」

 戸惑う愛に、綾香は笑顔を向ける。

「あ、酔っても何もしないから大丈夫だよ」

 優しい声で話しかける綾香に、

「帰ります」

 愛は冷たく言い放つ。

「お金、返します。ホテル代も置いていきます」

 手に持つお札をベッドに置き、愛は自身のバックから二万円を取り出し、乱暴に重ねて置いた。

 綾香は咄嗟に愛の腕を掴む。

「待ってよ……何か気に障ったなら謝るから」

 愛は絢香を冷たい目で見つめる。そういえば、と小さな声で呟き、

「別れてください、綾香さん」

 拒絶するように言った。

 綾香は固まる。

「……どうして」

 愛は淡々と続ける。

「飽きちゃいました。やっぱり男の人じゃないと満たされないみたいです。大学の先輩と付き合います」

 それは綾香を絶望の淵に落とす言葉だった。

「なにさ……それ」

 無意識に涙が零れた。

「いい歳なんですから――」

 愛は俯く、ゆっくりと顔を上げて、はっきりと口にする。

「ちゃんとした男の人を探してください。今までありがとうございました」

 愛は綾香に背を向けた。ゆっくりと愛の腕を握る手が離れる。

 愛は背を向けて歩き出す。愛の姿が見えなくなるまで、綾香はその背を眺めた。

 ひとり取り残された部屋で、綾香は力無くその場に座り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る