SEVEN・SAVE THE WORLD BAD END

ロックバンドは地獄を救う

 あり得ないオファーが来た。


「国連の事業として内戦の国を慰問してくれないか」


 戦地のバンド。


 かつてベトナム戦争の際、当時をきらめくスターたちが米兵を慰問公演したことは有名だが、それとも全く異なる次元のオファーだった。


 紫華シハナは瞬時に悟った。


『これが本願だ!』


 と。


 おぼろげな記憶をこめかみに力を込めて辿って辿って、「誰の本願?」と自問自答するがそれ以上思考を深くすると前頭葉のあたりに激痛が走った。

 だから、「今はいい」というそれも誰かのメッセージなのだろうと納得して紫華はカナエに宣言した。


「誰がなんと言おうと、行く」


 カナエは渋った。


「ダメよ。死ぬかもしれないのよ。それにAエイ-KIREIキレイはあなただけのバンドじゃないわ」

「わたし1人でも行く」


 ウコクが紫華に即座に反応した。


「わたしも行く。もう誰一人失いたくない」

「じゃあ、止めてよ!」


 カナエがウコクに激昂した。


 叫んでから口を覆い後悔するカナエ。ウコクがどれほど熟慮を重ねたかを瞬時に悟ったからだ。

 蓮花レンカがカナエに声をかける。


「カナエ。俺たちは4人ともどこか欠けてる。例えば表面上は俺は指だ。他のみんなもその自覚はあるだろう?」


 こくりと頷くメンバー。


「俺たちは4人でそのピースを埋め合わせるなんてことはそもそも考えてない。そうじゃないんだ。ないままでやるんだ。『無い』ことによって湧き起こる湧水でつくった清流を瀧のように、瀑布のようなエネルギーに変えて世の中に叩き込むのさ。どこへ?」


 蓮花は真摯なリーダーだった。


「世界の、穴へさ」


 最初の地は南米だった。

 空港のゲートを出た瞬間に5人は迎えに来てくれたエージェントから怒鳴りつけられた。


「Run!」


 熱風と砂埃の中、スニーカーのソールをジャリジャリ鳴らしながら横付けてあったジープに駆け込んだ。

 そのままエージェントがアクセルを踏み込んで一気に空港を離れる。


 バンドとカナエがリアウインドウを振り返るとナイフを持った男が二人ジープに追いつくのを諦めているところだった。


「ゲリラ?」

「いや。強盗さ」


 独裁政権の圧政に苦しむ人民の中から自然発生的に武装ゲリラ組織が3派台頭して政府軍と終わりの無い戦闘を繰り返しているのだが、更にそれよりも日常のレベルとしてはこうやって海外からの渡航者を標的にしたによる強盗が茶飯となっている。

 しかも最も高いレベルの渡航制限がなされている国であり、やってくる外国人たちはこの国をなんらかの形で支援しようとする人間ばかりなのだが、間接的な支援よりは直接的な物品の方が切実なのだ。

 エージェントは真顔で言った。


「女性二人は鉄の下着を着けるべきだ」


 演奏は向けだという。内戦で疲弊した人心を少しでも慰めるというのが国連の大義名分なのだがカナエはプサムと自己紹介したエージェントの彼に違和感をぶつけた。


「プサム。餓えた彼らの胃袋と疲れ果てた身体と絶望しかかっているココロにわたしたちは必要なの?」

「さあな。それは俺の知ったことじゃない。それとな、絶望しかかってるんじゃない。絶望るんだ」


 プサムはこの国の実態を5人に説明した。

 独裁政権は『微妙に優しい』食料配給策なども行い人心をつかず離れずのような状態にコントロールしていること。ゲリラ組織は異なる部族ごとに結成されておりもはや人種対立の様相を呈してきていること。政府軍側もゲリラ側も施策としての戦闘続行の物資調達のための大義名分として事実上の略奪行為を行なっていること。


「レイプもな」

「レイプが『物資調達』なの?」

「知るか」


『知るか』というプサムの正式回答を満足なものと捉えなかった紫華は後部座席から運転席のシートを蹴り上げた。


「何するんだ!?」

「プサム。日本人だからって舐めないで。あなたたちは確かにこの世の地獄を生きてるけれど地獄はここだけじゃない。日本にもある」

「何言ってんだ」

「じゃあ、わたしが14年間の間にことを全部話してあげようか」


 やめろ、と馬頭バズが言った。

 プサムに配慮した訳ではない。


「紫華が俺じゃない他の誰かにことなんて、聞きたくない」


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