炎のロックンロール・バンド
ある意味
国際会議の切れ間にバンドを割り込ませてくれた木田。
死して、なお勝利する。
木田の人格に対して紫華もバンドのメンバーたちも、そしてもちろんカナエも敬意を払っていた。
だから、キャンペーン曲の演奏が終わっていきなりカナエが英語で直接アフリカの大臣たちに語りかけた時には日本側の閣僚や官僚たちは俄かにうろたえた。
「この曲は命を落とした厚生労働省の課長補佐を追悼する曲でもあります」
「ほう。何があったんですか?」
「彼女はこのキャンペーンに本気で取り組んでいました。ただ、省内で意見の相違があったらしくわたしたちの起用を反故にするよう命令されていたようです」
「ふうむ。それでは課長補佐の死の理由がその失意による自殺かもしれないですね」
「本当のことは分かりません。ただ、普通に考えたら何らかの影響はあるのかな、と思います」
「ちょっと、あなた!」
突然甲高い男の声で呼ばわれたカナエは振り返って驚いた。声の主が総理だったからだ。
「あなた、こういう場でそういう発言は不適切でしょう」
総理の言葉にカナエはゆっくりと、英語で答える。全員で共有できるように。
「木田さんのような優れた官僚がいたことを世界の、特に差別や虐げと戦ってきたアフリカの方たちに伝えることは日本の国益にとっても大変プラスになることと思います」
官僚が、やはり英語で割り込んできた。
「このバンドのギタリストは妻子を殺された復讐のために殺人を犯しています」
それを聞いて壮年のアフリカのある国の大臣がゆっくりとした訛りのある英語で応じた。
「そうですか。私は祖国の解放戦線に参加していた時、私の妹を暴行して殺した人種差別主義者の白人を銃で撃ち殺しましたが」
日本国内のニュースソースでバンドの映像は一切無視された。
だが、はるか彼方のアフリカ大陸で、A-KIREIはこう紹介された。
『差別と暴力の辛酸と戦い続ける炎のバンド』
と。
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