SIX・SYMPATHY 4 GOD
Love & Peace を実現する少女
「お願い」
「うーん。でも、みんなそれぞれ主義・主張ってものがあるから」
「カナエ。わたしはそんな難しい話をしてるつもりはない。誰だって新入学や就職したりしたら『よろしくお願いします』って挨拶するでしょ? それと全く変わらないつもり」
「でも・・・」
「そうだ、カナエ。ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』ってあるでしょう?」
「え、ええ」
「『神を
そうしてバンドメンバー4人とカナエは神社に向かった。と言っても遠出するわけではない。お伊勢参りをする訳でも東京で一番大きな神社や芸能のご利益があると言われる成田山へ行く訳でもない。
地元・大塚駅南口にある『天祖神社』
紫華が氏神さまにお参りしたい、と言ったので、5人ぞろぞろと大塚の坂を歩いて下り、いつものスタジオにほど近いそのお社へと赴いた。
「お願いします」
場を仕切るのはカナエでなく紫華だった。ご祈祷の趣旨と『志』を社務所で渡す。まだ14歳の紫華がどうしてこういう神社での作法を知っているのか4人は不思議だった。カナエが訊く。
「叔母さまと神社へよく参拝したの?」
「ううん。叔母さんは叔父さんが亡くなってから神棚に榊もあげなくなった。当然神社へも行かない。『神も仏もない』って感じだった」
「そう・・・ご主人のことがあるものね・・・でも、じゃあどうして紫華はこんなにてきぱき応対できるの?」
「わからない。体が勝手に動く感じ。氏神さまにお参りするのも『そうせずにはいられない』って感じで口に出たの」
「ふうん・・・で? ご祈祷の内容はなんて書いたの?」
「『世界平和』」
「えっ?」
「『世界平和』。だってLove & Peaceはロックンロールの永遠のテーマでしょう? ましてや世界一のロックンロール・バンドにはそれを実現する義務があるから」
神職に誘われ社殿に上がる。
「本日はようこそお参りくださいました。そして志の高いご祈願。感服いたしました」
正座し、全員で首を垂れる。
「『世界平和』。自らの成功を望み栄華や安寧を祈願する方は大勢おられますし実際神さまはそれを遍く成就させる力をお持ちです。けれども」
そこまで言って神職は、ピン、と背筋を伸ばし直して居住まいを正した。
「真正面から本気で『世界平和』とおっしゃる方は今の時代では稀有です。私も全力で祈祷させていただきます」
ばあっ、とご祈祷の
「豊島区大塚に住まいし『園田紫華』がヴォーカルを務めしロックンロール・バンド、『
神職は渾身の祈祷で額に汗を浮かべ、烏帽子からはみ出た乱れた前髪はロックンローラーそのものだった。
「お下がりいただいたよ」
紫華は神職からお札、お神酒、菓子が入った紙袋を下げて上機嫌で境内の階段へ向かい、鳥居をくぐろうとして、
「おい。ネズミだよ」
全員が視線を移すと後ろ姿のネズミが微動だにせず立った状態で鳥居の柱の横に居た。どういうことだ? と全員でそうっと柱の前に出ると黒猫が右手を上げた招き猫のような状態でネズミを見下ろして射すくめている。本当に窮鼠の状態でだが噛むことなど現実にはほぼあり得ず、固まってしまっているのだ。
黒猫は人間を恐れていないらしく5人が静かに鳥居を通り過ぎようとすることにはまったく意識を振り向けなかった。ただ
「見るわけにもいかないだろう」
ウコクの呟きに無言で同意して一同は振り返らずに鳥居をくぐり境内から通りへ出た。
ぢゅーっ!
それがネズミの断末魔だったのだろう。その声を後に全員はそのまま坂を上りマンションへの道を歩き始めた。
馬頭が言った。
「縁起悪いな」
だが紫華がすかさず言い返す。
「どうして? 全く気にする必要ないよ?」
「紫華。だって、殺生のシーンだったんだぞ?」
馬頭はウコクに気を遣いながら『殺生』という単語を口にしたが、紫華はまったく波立たないいつもの美しい声でこう言った。
「自然の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます