第3話 「少女返死-エピローグ-」
その後、柚月葉ちゃん達の怪我の回復を待ってから、僕達は帰路に着くことになった。
帰りの車内、後部座席に座っていた僕に、隣にいる柚月葉ちゃんが声を掛けてきた。
「宗介様……?」
「何、柚月葉ちゃん?」
「今回は助けて頂き、本当に感謝しております……あの時宗介様が食い止めてくれていなかったら……」
「お、お兄ちゃんだって外で頑張ってたんだぞ!結界をぶち破ってだな、」
「前田」
柚月葉ちゃんがそう言うや否や、
「かしこまりました」
──ドスッ
「ぐっ……!」
後部座席に身を乗り出し抗議していた冬弥さんが、ぐったりと動かなくなった。
一瞬す凄まじい速さで、運転手の前田さんの手刀が冬弥さんの首元を捉えたように見えたが……とりあえず見なかった事にしよう……。
「宗介様……」
「ナ、ナンデショウ……?」
「私……宗介様に聞いてもらいたい事がありまして……」
「えっ?あ、改まってどうしたの?」
「はい……私、小さい頃から感情のない人形のような子だと、周りから言われてきたんです……」
「人形……」
一瞬、件の人形が頭を過る。
いやいや、あれと柚月葉ちゃんを比べるのは失礼だ。
「はい……でもお兄様だけは、俺の妹だからと、こんな私でも大事に見守ってきてくれました」
「ははは、ま、まあそれは冬弥さんを見ていたら僕にも分かるよ」
「あの時……」
「あの時?」
僕は柚月葉ちゃんに聞き返す。
「あの人形を前に宗介様は言いました……私の瞳は……感情の見えない……まるで暗闇の中に灯る怪しげな火、だと……」
それは、柚月葉ちゃんに成りすましていた、あの人形に向けて僕が言った言葉だ。
「あ、ああ……そう言えば言ったね、はは……」
まずい、やっぱり失礼だっただろうか……。
「私、嬉しかったんです……この世に、お兄様以外にも私の事を理解してくれる方がいる事に……」
柚月葉ちゃんはそう言って、頬を少し赤らめながら、上目遣いで僕を見てきた。
「ゆ、柚月葉ちゃん……」
「宗介様……」
柚月葉ちゃんの顔が僕の鼻先まで近づいてくる。
が、
「前田、止めてください……」
「はい」
「えっええっ!うわっ!」
突然柚月葉ちゃんが言ったのと同時に、車が急停止し、僕は思わず頭をドアにぶつけてしまった。
打った頭を摩っていると、ドアの窓がゆっくりと開く。
「その節はどうも、真夜様……」
柚月葉ちゃんの瞳に怪しげな火が灯る。
思わずゴクリと僕の喉が鳴った。
窓の外に目をやると、以前、古書店の外で見かけた美しい着物姿の女性がそこに立っている。
確か古書店の雫さんが言っていた真夜様……?
「お見送りをと思いまして……」
真夜と呼ばれた女性が表情一つ崩さず言った。
「あら、こちらこそ……あの時の雨、貴女の仕業ですね?一つ借りを作ってしまいました。いずれ日を改めてお礼を、」
柚月葉ちゃんがそう言いかけると、
「二度とこの鎌倉に、あの古書店……いえ、あの方に近づかないでくださいませ……もし守って頂けないのであれば……」
「あれば……?」
聞き返す柚月葉ちゃん、それには何も答えず、真夜さんは黙ったまま小さく頭を下げた。
「ふふ……前田、出してください」
「かしこまりました」
僕は慌てて遠ざかっていく真夜さんに頭を下げると、隣にいる柚月葉ちゃんに向き直った。
「宗介様……」
「は、はい……?」
「あの鎌倉山には、山の主である化け狐が住んでいるとか……」
「ば、化け狐?」
「一人の人間の男に恋をした、哀れな狐の言い伝えがあるそうです……」
「そ、そうなんだ……」
「面白い街ですわね、ここは……またいずれ……」
そう言って妖艶に嗤う彼女を見て、僕はまた、いつの間にか彼女に魅了されている事に気が付いた……。
これからもまたこんな事が続くのだろうか?
不確かであやふやな、兄と妹の事情に振り回される日々が……。
まあ……それも悪くは無いと、今は思っているけど。
兄時々妹の事情 コオリノ @koorino
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