第一章3 『祝、入学』
その後、制服の左胸のところに男の子は青い花を、女の子はピンクの花を付けられて、各々が先程決まったクラスへと向かっていく。
たくさんの装飾で彩られた木製の下駄箱、廊下の途中にある黒板には『にゅうがくおめでとう!』と大きな文字で描かれていた。
そして、『1ー3』と看板のある教室の前に来る。
横開きの扉には、席順が掲示されており、案の定僕の席の前にはもっちゃんが、右隣には史織の名前が書かれていた。
「お〜やっぱり隣だったか」
「そうだねっ!良かったなぁ、隣で!」
そう言いながら扉を開けると、そこには先程の下駄箱とか廊下とは比にならないくらいの装飾が施された、何かのパーティ会場かと思われるような教室が待っていた。
しかし、それとは真逆で、既に教室にいた同級生かつクラスメイトの子たちの表情は硬い。
……ん?いや、違うな。
表情が硬いとかじゃなくて、動きが止まってる?それも視線が一箇所に固定されてるような……。
…………あっ。
クラスの、主に男子の視線を追うと、僕の後ろに行き着いた。
なるほど、忘れていた。そういえば史織ファミリーの見た目はとんでもなく珍しかったんだ。
一目見たときに目を奪われてしまうのは誰でも同じだろう。
しかし、そんな中でも反例は必ず存在するわけで。
座っていたクラスメイトのうちの一人が僕に声をかけながら立ち上がった。
「あ!おはようたっちゃん!」
ガタッ、と椅子を引いてもっちゃんがこっちに向かってくる。
「おはようもっちゃん!同じクラスだな!」
「そーだよ!ビックリした!」
パチンっとハイタッチを交わす。
それなりに良い音。
「僕の席どこ?」
「あーコッチコッチ!」
もっちゃんに連れられて一番後ろの席へと向かう。史織も僕の後をついて来る。
クラスの人数は三十六人。男子十八人女子十八人、見事に一対一である。
席は男女一人ずつで一セットとして、横に三セット、縦に六セットあり、正方形に近い形だ。
その様子をジーっと見ているクラスメイト。なんだか悪目立ちしている気分になる。
すると、
「……なーなー、アレって金髪だよなっ」
「あぁそーだと思う。スゲー」
と、クラスメイトが囁き合う声が聞こえた。
幸い悪目立ちはしてなかったようで一安心だ。やっぱり奇異な目線じゃなくて、興味を持ってくれるのは小学生の良いところだと思う。……僕もそうであるように。
お母さんと冬川さんは教室の後ろへと向かい、既に来ていたクラスメイトの親と話をしに行く。
どうやら二人とも顔が広いようで、直ぐに話に花を咲かせていた。
席に座ると、全クラスメイトが気になっていた事をもっちゃんが口にする。
「ねーねー、君ってなんで金髪なの!?あと目も青色だ!」
「これ?これはねーお母さんからの遺伝なんだって!」
「へー!……あ、ホントだ!君のお母さんも金髪で青色の目だ!……すっごい綺麗だね!髪の毛触ってみてもいい!?」
……お、ちょちょちょっもっちゃん!?
展開早すぎないっすか!?
もう触ろうとしてるんですけどっ!?
「え……い、いいよ?」
「ちょっとストップ!」
待て待て、史織も史織で認めるの早すぎだって!
髪の毛は女の子の命ってよく言うでしょ!
そんな簡単に触らせたらダメだって!!
「なんだよたっちゃん」
もっちゃんが迷惑そうに言う。
「……ま、まず自己紹介しようぜ!つっても俺のことは二人とも知ってるだろうから、お前ら二人がさ!」
「じゃあこれもスキンシップの一つってことで」
もっちゃんが再び手を伸ばそうとする。
それを、僕は阻止。
「名前だって!まずそれからだろ!」
「はいはい分かったよ」
もっちゃんが姿勢を正す。
「…………俺は高校生探偵、船井元則。幼馴染で同級生の松村大輝と同じ幼稚園に通って三年間を過ごし、無事幼稚園を卒園出来た!…………だが、その事で喜んでいた俺は、正面から近付いてくるもう一つの試練に気付かなかった!そして俺はお母さんに連れられ、我に帰った時には………………いつのまにか小学校に居たんだ」
「長いウザいめんどくさいそして真面目にやれ!嘘言ってんじゃねぇよ!」
「……す、すごい!」
「そこ!感心しない!」
ぶっちゃけ必要な情報は二文目までで終わっている。その他は某アニメの見過ぎだ。確かに面白いしカッコいいけども。
というかいつから僕はツッコミ役になったんだ。
「元則くんも○ナンくん観てるの!?」
史織が前に乗り出す。
「おう、ついでに録画も全部してるぞ!」
「えぇ!わたしも一緒だ!よろしくねっ、元則くん!」
「おうよろしく!……それで、君の名前は?」
握手をしかけて、もっちゃんは言葉に詰まる。まだ史織の名前を聞いていない。
「ぁ、そうだったね。わたしの名前は冬川史織!名探偵とかじゃないけど、改めてよろしくね!」
再び手を差し出す史織。
「史織か!良い名前だな!よろしく!」
そして握手を交わす。
……なんだこれ。コイツら子役か?
というかもっちゃんが口説きにかかってるような気がするんだが。
「それで、その髪触ってみてもいい?」
「うん!いいよ!」
「あ……」
……クソ、止める隙も有りはしなかった。
さわさわと、史織の髪の毛先を触るもっちゃん。
さわさわ……さわさわ……。さわさわ……。
僕の胸は、ざわざわ……ざわざわ……と。なんなんだこの胸騒ぎは。イヤな感じがする。
ジッとその様子を見ていると、どうやら史織が僕の視線に気付いたようで。
……んー、と何かを考える素振りを見せた後、口を開いた。
「……大輝君にも後で触らせてあげるよっ」
と、耳打ちされた。耳元がブワッとする。
…………お、おう。
──さっきよりも胸騒ぎが煩くなったような気がした。
☆ ☆ ☆
長い長い入学式が終わった。
四列横隊で並ぶので、隣にはもっちゃんが居て、式中何度もちょっかいをかけてきた。
めんどくさかったけれど、そのおかげであまり退屈せずに式を終えられたので、ある意味感謝である。
「あー、長かったなーたっちゃん!」
「そーだなー。お前さー、よくあんな長い時間ずっとちょっかいかけてられるな」
「それはまた別の話だからな!」
どうやらちょっかいに時間は関係ないようだ。
☆ ☆ ☆
「じゃあ、名簿番号一番の安達陽介くんから!自分の名前と、好きなもの、嫌いなもの、何でもいいから一つ言っていってね!自分のアピールでもいいよ!」
と、担任の女の先生が元気よく言う。
……好きなもの、好きなものかー。あんまり考えたことないから分からないな。
かと言って嫌いなものを言うのも、なんか印象悪いしなー。
ここは一発自分のネタでも言ってみようか。
……ウけた事は一度も無いけど。
「……はいありがとー!じゃあ次の子!」
「はい!」
元気よく返事をしてもっちゃんが立つ。
もっちゃんは何を言うのだろうか。
「俺の名前は船井元則です!さっきも聞いた子もいると思うけど、名探偵○ナンが好きです!」
……ふ、普通っ。
「へー!そうなんだね!やっぱり○ナンくんが好きなの?」
先生が話を盛り上げるためにもっちゃんに尋ねる。
「いや、僕は博士が一番好きです!」
「あ、そ、そうなんだ……」
おい、先生の気遣いを……。
まぁもっちゃんらしいと言えばらしいか。
すると、さっき史織の髪の毛について囁き合っていた男子の……確か名前が
「先生!元則くんは○ナンくんのモノマネが上手なんだよ!」
「えっ、そうなのー!?じゃあ元則くんちょっとやってみてよ!」
「え、……じゃ、じゃあ」
──さっきとは違い、名前を実物に変えたモノマネを行ったもっちゃんだった。
そして、いよいよ僕の番が回ってきた。
「……はいっ、上手なモノマネありがとね、元則君!……じゃあ次の子!」
☆ ☆ ☆
もとのり君の自己紹介が終わって、次はいよいよたいよう君の番だ。
どんなことが好きなのかなー?たいよう君も○ナンくん好きだったりするのかなー?楽しみだなー。
「……はいっ、上手なモノマネありがとね、もとのり君!……じゃあ次の子!」
「はい!」
元気よく返事をして席を立つたいよう君。
……やっぱり横顔カッコいいなぁ。日光も相まってすごくカッコいい。
……い、いけない。今はそれよりも自己紹介だ。
「僕の名前は松村たいようって言います!自己アピールというか、自己紹介になるけど、よく『村松っ』って呼ばれるので、皆んなは間違えないでください!……あ、あと、名前が『たいよう』だから、漢字が『太陽』だと勘違いされるんだけど、正しくは『大輝』なので、これもよろしくお願いします!」
と、漢字を書いた紙を周りに見せる大輝くん。
へ〜、そうだったんだ。私もずっと太陽くんだと思ってた。ビックリ。
しかし、周りを見渡してみると、その反応は芳しくない。『何言ってるの?』という言葉が、みんなの頭上に浮かんでいた。
「あ……」
大輝くんも、ちょっとたじろいでいる。
この空気は気まずい……。なんとかしないとっ!
「へ、へ〜!そうだったんだね!わたしもずっと『太陽』だと思ってた!ビックリ!」
「そ、そうだね!皆んなも漢字が書けるようになったら、間違えないように注意しようね!」
私と先生で必死にフォローする。
大輝くんがこっちを見て、すごく安堵した顔をする。
な、なんとか間は持ったかな……?
皆んなも徐々に納得しつつあるし。
……もうっ、反応しにくい自己紹介はダメだって言っておけば良かった!
これは後で貸しにしておかないとダメね!
それ以降は特に誰も変わった自己紹介はせずに、名簿番号最後の女の子まで順番が回った。
変わった事といえば、私の髪色と目の色についてだろうか。そこには多少の質疑応答があった。
でも、特に悪い印象は持たれてなかったので良かった!
──こうして無事──?──に、自己紹介を終えた1ー3であった。
……一方その頃。
「はぁ、大輝ったら。あんな一度もウけた事の無いネタを、なんであんなにもやりたがるのかしら……」
「そうですか?私は面白かったですよ?」
「そう言っていただけると助かります……」
──自分の子供のセンスのズレに、少々不安を感じた松村母だった。
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