第十一章 一ノ瀬とマヤ
八月も後半になるとマヤが働き出した。
家の近くの馴染みの豆腐屋さんで。働いていたパートさんが引っ越すことになりちょうど働けることになった。
マヤの働く豆腐屋で同僚の一ノ瀬に会った。
土曜日は俺は仕事が休みだったがマヤが仕事だった。
午後三時に仕事が上がるマヤをゴン太と迎えに行った。
「よお、一ノ瀬」
「山本さん」
一ノ瀬はたくさん買い込んでいた。
心なしかお洒落をしてないか?
まさか、コイツ……。
「ヒカルさん」
店の奥からマヤが店のエプロンをつけてニコニコしながら出て来た。
「仕事終わったか? 迎えに来たぞ」
「うん。帰り支度してくる。ヒカルさん待ってて」
パタパタと音を立ててマヤは店の奥にまた引っ込んで行った。
「山本さん。山本さんの彼女って」
「この子だよ」
すぐにマヤが支度を終え戻って来たので俺はマヤの肩に右手を置いた。
「ヒカルさんの会社の人?」
「ああ、一ノ瀬。会社の後輩だよ」
「
マヤが一ノ瀬にお辞儀をする。
俺にマヤは微笑むと腕を組んで来た。
恋人らしく振る舞うつもりか?
マヤの俺を気遣う演技だろう。
それを見て一ノ瀬は分かりやすく落ち込んだ。
あ〜、やっぱりなあ。
俺は鈍いほうじゃないので一ノ瀬がマヤを気に入ったらしいことはすぐに気がついた。
「ヒカルさん、帰ろう?」
「一ノ瀬またな」
俺とマヤとゴン太が家に向かいかけた時。
「山本さんっ!」
「んっ? なんだ?」
俺は呼び止められて一ノ瀬を振り返る。
一ノ瀬は真っ赤な顔をしていた。
「山本さん!」
「マヤさんが好きです。俺にマヤさんを譲って下さい」
俺は呆れていた。
譲るって。
そこにマヤの意志はないのか?
人は物じゃない。
俺は怒りを通り越してただただ呆れて困り果てていた。
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