第八章 マヤのお弁当
うちにマヤが来て一ヶ月が経っていた。
すっかり俺はマヤのいる生活に慣れて「ただいま」を言って「お帰り」と言ってもらえる幸せに浸っていた。
俺は干物や酒のツマミを作る工場でダンボールに商品を詰めて梱包して出荷の準備をする。
フォークリフトのピーピー鳴り響く音がそこいら中でしてる。
うるせえなと思いながらも顔には出さない日々。
ここ一ヶ月はマヤと暮らしているからかそんな雑音も他人の幸福話や自慢話にも心が乱されることがなくなった。
昼飯の時間になって俺は工場脇のバラック小屋で仲間たちとテーブルを囲んで弁当を出した。
小屋には年季の入った粗末な畳が敷かれていて飯が食い終われば各々がスマホをいじくったり漫画本を読んだり、昼寝をしたりと好きな時間を過ごす。
俺が弁当を出したら横の一ノ瀬が覗き込んで来た。
「何だよ。人の弁当を覗くんじゃねえよ」
俺は苦笑いしながら一ノ瀬の視線から弁当を外して背中を向けながら食べ始めた。
「良いなあ、山本さん。若くて可愛い彼女が出来たんですって?」
「まあな〜。羨ましいだろ?」
俺はマヤの作った国民的キャラクターの弁当を隠しながら食う。
恥ずかしいからキャラ弁はやめてくれと言ったのに相も変わらずマヤは凝った弁当を早起きしてまで作ってくれるのだ。
俺は厚焼き玉子を丁寧に割って口に入れ、ゆっくりと
マヤの作る厚焼き玉子は絶品だな。
マヤは彼女じゃないが周りには彼女ってことしてる。
いちいち否定してたら面倒くさいし身が持たない。
マヤが言ったとおりに振る舞って正解だったな。
俺は何も気づいちゃいなかった。
男ってやつは勝負したがる生き物なのか?
狩りをし獲物を得る。
そんな大昔の刻まれた祖先の歴史か遺伝子からか?
自分も男だがまさかマヤに惚れた男が現れて戦いを挑まれる日が来るなんて。
理解に苦しむ。
この時の俺は仕事帰りに花火を買ってマヤを楽しませたい。
弁当を美味い美味いと食いながらそんなことばかり呑気に考えていた。
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