ある日常

 朝、目が覚めた。

 学校サボろうと思った。


 夏休みが終わって一週間頑張った。そろそろサボってもいいと思った。

 全てが面倒になった。学校に行く意義を見失った。逃げるほうが楽だった。頭の中がグッチャグチャになっていた。

 理由は何でもいいけど、とりあえずサボることにした。決定。パチパチパチ。


 そうと決まれば準備開始だ。

 勉強道具の入ったリュックサックを引っくり返して、休日用かばんの中身と入れ替える。

 財布、腕時計、扇子、飴、十徳ナイフ、十徳ペンチ、携帯用音楽プレイヤーにヘッドホン。

 よし、これだけあれば今日一日は過ごせるな。

 そう呟いて不安を誤魔化す。いや本当は不安なんてないのかも。まあどっちでもいいか。


 中学校の半袖ハーフパンツに着替えて、支度はできた。

 その上から着れるズボンとシャツを見繕いリュックサックに突っ込む。これでサボる支度ができた。

 階下から聞こえる、早く飯食って出ろという催促に生返事をしながら、今日のプランを考える。本屋で立ち読みをするにしても、家を出るのが7時半では時間が早すぎるのは、何度も経験したことなので分かっている。それまでの暇つぶしの本も今は無いし……。

 そうだ、ネカフェ行こう。ネットカフェなら時間を潰し放題だし、一回行って見たかったんだよな。


 納豆を混ぜながら思案する。親をどうやって誤魔化そう。父さんはもう出勤したので、誤魔化すのは母さんだけでいい。どうにかして学校に行っていたように見せかけなければ。

 3秒あまりの熟考の末、やはり、連絡手段を断つべきだと考えた。学校から家に「お宅のお子さんがまだ来てないんですよー」と電話をかけてこなければ、僕が学校に行ったかどうかを母さんが知ることは無いと言っていい。携帯電話の方にはめったに学校から電話をかけることは無いので、固定電話をどうにかしよう。

 電話線を抜けば電話が繋がらなくなることを思い出した僕は、さっそく親機の線を全て抜いた。これで学校に行っていないことが(今日の内に)親にバレる確率は大幅に下がったであろう。


 何食わぬ顔をして家を出発した僕は、自宅の自転車置き場に、目立つ中学指定ヘルメットを隠して、リュックサックに入れておいた大きめの私服を体操服の上から着こむ。

 あっという間に中学生から一般人にフォームチェンジした。

 自転車に跨り、いつもの通学路には目も向けずに街の中心部へと走りだす(うちの学校は基本自転車通学である)。目指すはネットカフェ。怪しまれないように頑張るぞー。


 自宅を出て一人になり、バレるかもという緊張が溶けた僕は、重要なことを思い出す。

 あれ、僕ネカフェの場所知らねーじゃん。

 とりあえず中心街の方にチャリを走らせてはいるが、別にどこにあるか分かっていた訳ではないのだ。

 でもこの街の何処かにあったような気がするな。よし、虱潰しに探していこう。


 というわけで、まずネットカフェを探すところから始めなくてはいけなくなった僕だが(スマホは持っていない)。一軒目は意外とすぐに見つかった。

 まずは外の看板から情報を集める。入会不要で、全室個室で、相場知らんけど安そうだし、DVD見放題とか書いてあるし

 これは当たりなのでは?と思い、自転車を置いて中に入ろうとする。と、まずい事に気が付いた。自転車に、思いっきり中学校の名前のステッカーが貼られていたのだ。どうしよう、と悩むとすぐに解決策を思いついた。僕はリュックサックの底でシワクチャになっている何時ぞやの手紙を取り出し、それを綺麗に伸ばして、折り畳んで透けないようにして、ステッカーの上から自転車に巻きつけた。これなら「〇〇中」の文字は見られないので、即通報はされないだろう。


 さあ今度こそ人生初のネカフェだ、と思い、店に入ろうとする。と、目に入ってきた閲覧可能DVDのパッケージ。裸の女性がたっくさん。うん、思いっきりAVだ。前に出した足の向きを180度曲げて、自転車に飛び乗り、なるべく早く店舗から離れる。

 危ない危ない、あの店明らかに未成年立入禁止系の奴だ。年齢確認の時に学生証なんて見せた日にゃ、赤っ恥レベルじゃ済まないぞ。案件になっちゃうぜ。学校サボっといて何いってんだ、て話ではあるけれど。


 その後、そこから頑張って何件かネカフェ見つけたけど、会員登録が高かったりとか、料金が高かったりして、結局ネットカフェは諦めることにした。


 時刻も11時になって、本屋も開店してる時間になったので、サボりの時のいつもの本屋で立ち読みをすることにした。

 冷房のきいた店内に入ると、また棚の配置が変わっていた。ここの本屋レイアウト変えるまでの期間短すぎじゃないか?と思いつつ店内を物色する。面白そうな漫画のシリーズを見つけた僕は、そのまま時間を忘れて本の世界に浸る。


 …………


 …………


 …………


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 …………


 …………



「そろそろ帰るよ」

 後ろから声をかけられた。母だった。







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一回で書ききれなかったので、次回に続きを書きます。

ちなみに、この話は昨日の僕の一日の話です。

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