第63話 くるっとまわって、にぱっ!
まりえの幸福感は、長くは続かなかった。インチキ占い師と別れたあと、何もすることがなかった。
(行きたいところ、やりたいこと……。)
まりえがスッキリしない気持ちを何とかしたくて彷徨っていると辿り着いたのはデジタルサイネージの前だった。まりえにとってはその広告が人が人を魅了するための立居振舞の見本市のようだった。水槽の中には、メイドやアイドル、撮影モデルたちが笑顔を振りまいている。クルッと回ってにぱっと笑顔を見せたり、胸の前で手を握りアンニュイな表情で上目遣いをしたり、激しく手足を動かしたり。そのうちに見ているだけでは収まらなくなった。
(くるっとまわって、にぱっ)
まりえはその場でアイドルたちの動きを再現するようになった。もともと整った顔立ちに抜群のスタイルをしている。しかも、媚びたところのない正統な巫女装束を身に纏っている。だから人目につくのだが、それに輪をかけて動き回り、表情を変えている。そんなまりえを、街に遊びに来た人たちが放って置くはずがない。まりえがふと我にかえったときには、その周りには黒山の人だかりができていた。
(すごい人。みんな私を見てる!)
注目されればされるほど、まりえは調子を上げていき、笑顔が冴えていた。
(楽しいかも!)
まりえは、やりたいことが見つかったような、そんな気持ちになった。だが、次の瞬間には、全く違う思いが去来した。
(マスターがいないんじゃ、仕方ないのに……。)
まりえ自身が気が付いたときには、また駆け出したあとだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます