第61話 共同作業
「まことはチョコレートをなるべく均等に分けておいて」
あゆみはそう言うと、ピーピーと音を立てているヤカンを持ち大きいボウルにお湯を全て注ぎ、再びヤカンで湯を沸かしはじめた。そして小さいボウルにまことが分けた2片のチョコレートを入れ、小さいボウルごと大きいボウルに浮かべた。お湯の熱がチョコレートを溶かし、甘い香りを発散する。
「んーん。堪んないわね、この匂い!」
アイリスはそう言いながら、これくらいは朝飯前といった表情で次々に卵を割り、卵黄と卵白とに分けた。時々、卵の殻が入り込んだりはしたが、アイリスはそれを素手で掬った。アイリスは卵白を40個分ずつ小さいボウルに入れてはラップをし冷蔵庫に入れ、卵黄を大きめのボウル2つに次々に並べていった。アイリスが卵を割る度に、アイリスのおっぱいが激しく揺れた。あおいがそれを見て呆れて言った。
「ったく。そのおっぱいはなんとかならないの!」
まことがチョコレートを6片ぐらい溶かしたところで再び湯が沸き、しいかが大きいボウルの湯を交換すると、またまことが残りのチョコレートを別のボウルに入れて溶かした。道具や材料を持ち運ぶのはしいかの仕事だ。しいかはあおいに顎で使われながらも楽しそうに作業していた。そしてあおいは薄力粉とベーキングパウダーを丁寧に挽くと半々に分けて大きいボウルに入れた。あゆみが2つのオーブンに点火し、中を温めはじめた。その間に卵黄にグラニュー糖を入れながらザックリ混ぜた。
それでようやく優姫の番が回ってきた。溶かしたチョコレートをあゆみがザックリ混ぜた卵黄とグラニュー糖の入ったボウルに素早く入れ、あおいが挽いた粉を入れた。優姫の役割はこれまで。ボウルをあゆみに託した。
あゆみはかなり荒っぽい動きで材料を一気に混ぜた。その間にアイリスが冷やしていた卵白を取り出し、グラニュー糖を入れながら順番に泡立てメレンゲを作った。泡立て器を動かす度にアイリスのおっぱいも動いた。
あおいがあゆみから茶色くなった材料を引き継ぐと、おたまですくった白いメレンゲの上の方をちょんと乗せ、泡立て器で入念に混ぜ込んだ。今度は逆に白の中に茶色を流し込んでゴムヘラでザックリと混ぜた。材料は均等に5つのボウルにおさまり、それぞれが光を放っているようだった。そのままシフォン型の容器4つにそれぞれを入れた。あおいがオーブンの余熱を確かめている間にあゆみががさっと左右に振ったシフォン型を、しいかがオーブンに入れた。
焼き上がりを待っている間にアイリスが空いたボウルや木ベラなどの道具を綺麗に洗い流し、水切りかごにおさめた。元々綺麗に掃除されていたシンク周りもコンロ周りも、それがついでの所業とは思えないほどピカピカとなり、周囲の光を優しく跳ね返し、明るくなったようにさえ感じさせた。
あおいはボウル1つと泡立て器の水気をふきんでよく拭き取り、生クリームを泡立てるのに使った。
オーブンがチンと鳴った。あゆみは材料を素早く取り出し竹串を刺して焼け具合を確かめた。あおいと顔を見合わせ頷いた。その頃には、キッチンから溢れ出た香りが周囲の人の足を止めるまでになっていた。6人で作るシフォンケーキは完成した。かなりの力作だった。
だが、まりえは一向に姿を現さなかった。『まりえをあまい香りで誘き出す作戦』は、失敗したのだった。
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