第53話 日供祭のあとは、お楽しみ

「はい。それ履いたら、こっちに来てちょうだいね」


 あおいが太一に渡したのは水着で、布面積が小さいローレグローライズだった。この頃には、日供祭が終わると発光回数がリセットされることは、巫女たちにも周知となっていた。そして、発光の独占を狙って巫女たちが争わないようにと、日供祭後、直ちに太一は発光することが義務付けられるようになった。そんな中、衣服による不思議な光のロスを少しでも減らすために、風呂場で水着着用の上発光・受光というアイデアが考案された。


(ここが1番光るってのは、内緒にしておいた方が良さそうだな)


 太一は、水着で隠されている部分を手で押さえながら、声に出さないように思った。実際、太一は全身くまなく発光するのだが、濃淡というのは存在する。だが、発光している太一のことを誰も直視できないため、巫女たちは認識していない。もし、発光が濃い部分がどこかが巫女たちにバレてしまったら、どんな格好をさせられるか分からない。


「お待たせ!」


 太一が風呂場に入ると、あゆみが近寄って来た。この日はあゆみが密着当番なのだ。太一は、今のところ興奮状態に陥らないと発光しない。だから密着当番が密着して、太一に性的な興奮を与えることになっている。当番は1番近くで光を浴びることができるため、太一の発光後は素早く背中側に回ることが義務付けられている。


「はぅう、マスター、よろしく」


 発光・受光の秩序。それは、巫女たちが話し合って決めたもので、太一に発言権はない。だが、それに従ってさえいれば、何かと特典が付いてくるわけだから、普通の男子高校生を基準にすれば、おいしいはなしである。だから、この件に関して太一は文句を一切言わない。あおいやアイリスのビキニ姿が拝めるのだから。


「4回光ったあとは、早い者勝ちよ!」

「うん!」

「O.K.」


 それでも、このルールだけは納得がいかない。それは、発光回数が増えたかどうかをチェックするための密着は、早い者勝ちというものだ。もし、発光回数が増えていれば、いち早く太一に密着したものは、多くの光を浴びることができる。しかし、発光回数が増えていなければ、太一の反応は普通の男子高校生と同じため、何を浴びることになるか分からない。これは、巫女たちにとっても、賭けなのだ。この日は、発光回数が増えている可能性が強いことも、みんな知っていた。


「じゃあ、いくよ」

「ちょっと待ってて」


 太一が、近寄って来るあゆみを制して言った。太一は、発光する際に毎回2つの試しごとをしている。1つ目は、興奮と発光の因果関係をなくせるかどうか。もし、自身の興奮に限らずに発光したり、興奮しても発光しなかったりということができるのならば、そうしたいのだ。こうして発光させるために、密着当番を決めている巫女たちに申し訳ないからだ。太一は発光しているときの身体の状態を意識してみるのだが、上手くいったためしがない。


「ごめん。やっぱり無理みたい」


 太一がそう言うと、あゆみはホッと溜息を吐いた。太一が能力の制御に目覚めなかったことへの失意が半分、これから巫女たちを代表して密着の任に就くことができると思うとどこか嬉しいと感じてしまうことへの罪悪感を紛らわすためというのが半分。いずれにしても、今回のところは、密着するしかなさそうである。


「ううん、大丈夫」


 下唇の上にちょこんと右手の人差し指を乗せながら、あゆみが言った。それから太一に身体を寄せ、ゆっくりと密着していく。あゆみにも太一にも緊張が走る。周りにいる巫女たちも同様だ。太一の心臓がドクンドクンと、強く波打つ。それはあゆみも同じ。互いの鼓動が認識できるようになると、太一の全身は次第に光を帯びてくる。


「き、気持ちイイー!」

「はぁん。あゆみも、気持ちイイー!」


 あとはご承知の通りで、太一の放つ不思議な光を浴びた巫女たちは、次から次へと気持ち良くなり、絶頂に達するというわけだ。このときに、太一は密かにもう1つの試しごとをしている。それは、発光する部位の制御だ。不思議な光を少しでも無駄にはしたくないという気持ちからの試みだ。これも上手くはいかなかった。だが、これまでと大きく変わったことがあった。太一がこと尽きて、不思議な光が止むまでに、5分ほどを要したということだ。


「ちょっと、何なのよ。今の光って!」

「なんだか、今までよりも激しかった気がします」

「ま、最高な気分っしょ!」

「私は、もうヘトヘトよ……。」


 発光が今までより格段に長くなっていることは、太一も巫女たちも全員が気付いた。それだけではない、光が強くなっていた。あゆみの密着が特別気持ち良かったわけではない。太一の発光レベルがアップした証しだ。


「み、みんな。つっ、次行く、よ!」


 あゆみが汗だくになりながら言った。これまでよりも強くなった光を至近距離で浴びたあゆみは、かなり疲れているようだ。離れていたアイリスでさえ疲れているのだから、相当なものなのだろう。


「だ、大丈夫、みんな」


 太一が、みんなを心配して声をかける。だが、気持ちの良さというのは、病み付きになるのだ。誰1人として、もう辞めたとは言わなかった。ここまでくると、命懸けだ。


 あゆみが、そっと密着しようとした、そのときだった。


「マッ、マスターの水着の中が、光ってる!」

「なっ、何よ! まだ止んでなかったの」

「違うわ、2回目の発光よ!」

「でも、まだ私、密着してないわよ」

「もう、だから危ないって言ったのに」

「ま、光ってなんぼの鈍ら宮司だから、仕方ないっしょ」

「すごーい! マスターすごーい!」

「あぁ、俺、コントロールできるぞ!」


 全部で8回、太一は自由自在に発光した。そのあと、小1時間程は、誰も立ち上がることができなかった。巫女たちも太一も、太一のパンツの中のものも。

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