第52話 神様のおしごと

 太一は、本島のことを光龍様に報告した。


「在宅禰宜とは何なのじゃ。聞いたことないのじゃ」

「俺もはじめてです。けど光龍様、これからの時代は、ICTの活用が鍵です」

「あんなオモチャ、役に立つとは思えんのじゃ」

「文明の利器。スマホやパソコンは、結構便利ですよ」


 夕餉の日供祭で、太一は鼻高々にスマホを光龍様に見せびらかした。


「ま、技術革新を担うことには賛成なのじゃ」

「じゃあ、これで御神託はクリアってことで良いですか?」

「それは、儂が決めることではないのじゃ」

「えっ、そうなんですか?」

「そうなのじゃ。神のしごととは人に道を示すことなのじゃ」

「では、御神託とは何なのでしょうか」

「ビジョンなのじゃ。大まかな方針に過ぎぬのじゃ」

「そんな……。」

「それを具現化するのは人の力なのじゃ」


 人をどこへ導くかを決めるが、どうやって導くかは決めない。あくまでも見守るだけ。光龍様のいう神のおしごとというのは、そういうことだ。


「それでは、御利益って、何なのですか?」

「そんなもの、自助論なのじゃ」

「何と……。」


 太一は、開いた口が塞がらなかった。無責任なものだと思ったが、一方では言い得て妙だとも思った。


「そんなものなのじゃ」

「発光体質はレベルアップしたのでしょうか」

「それは、光ってみれば分かるのじゃ」


 太一は思った。光龍様は何1つとして間違ったことを言っていない、と。


 太一はそのままみんなの待つ風呂場へ向かった。鱒家の風呂場は、一般的な風呂場の5倍近い広さがある。滝行の練習や身を清める行水ができるようになっているのだ。巫女たちは、太一のことを水着姿で待っている。それはそれは、艶やかなものである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る