第47話 アッカンベエと水槽

 太一たちが光龍大社に持ち帰ったのは、優姫がいくら値切っても、単なる謎だった。禰宜でも小松菜でもない。だが、その謎を解きさえすれば、本島が禰宜を引き受けてくれるかもしれない。日供祭のあとで、鱒家の居間に集まり全員で謎解き大会となった。皆真剣な表情を見せているが、まりえだけは上の空だった。


「で、アッカンベエと水槽って、美味しいの!」


 あおいのきつい冗談だ。


「アッカンベエなら、私、心当たりがあるわ」


 あゆみが言った。あゆみは運動会のことは知らないが、本島はそれよりも前から事ある毎に女子児童にアッカンベエをされていた。あゆみ自身も本島にアッカンベエをしたことがあった。1度きりではあるが、心からアッカンベエしたのを、今でも覚えていた。


「そういえば、そんなのあったな」

「以前、マスターがはなしてくれました。小4の12月の終わり頃に……。」

「……あっ、あぁ。それは、私が……。」


 優姫が言っているのは、あゆみが太一にプレゼントを渡したときのことだと、あゆみには直ぐに分かった。本島がアッカンベエをされたことは他にもあっただろうに、よりによってそのときのことを持ち出されてしまって、あゆみは赤面してしまった。墓穴を掘ってしまったと思った。優姫は、その張本人が目の前にいるとは思ってもいなかったので、みるみる顔を赤く染め上げていくあゆみに、具合でも悪くなったのではないかと心配した。


「じゃあ、水槽って、何よ?」

「分からない。全く繋がらないんだ……。」


 本島が太一のところにまりえたちを鑑賞しに訪れたことは何度かあったが、本島自身が魚を飼ったことはないはずだった。未解決のまま深夜を迎えた。


「あっ、もうこんな時間! よいっ」


 そう言って、アイリスが何気なくテレビを点けた。深夜アニメを観るためだった。そのときだった。


「あれ、マスター。ここにも水槽あったの?」


 それまで全くはなしに加わっていなかったまりえがおもむろに言った。


「何寝ぼけてんのよ。それはテレビ!」

「うっふふふふふ。まりえはテレビを見るのはじめてなの?」

「はじめてじゃないよ。今日、街の中で見たよ。すっごい大きいの!」

「確かにありましたね。何人かの女の人が中にいました」


 まりえと優姫には、テレビやデジタルサイネージの四角い画面が、水槽のように思えたらしい。まりえも優姫も、水槽の中にさえいれば、太一を含むどんな人でも魅了できる自身がある。世界最古の観賞魚として、連綿と魅せる遺伝子をつないできた自負があるのだ。だから、なかなか相手にしてくれない太一の気を引くために、まりえは水槽の中、四角い画面の中に入りたいと言ったのだ。兎に角、まりえのおかげで、水槽というキーワードが繋がりはじめた。占い師の言う水槽とは、まりえが勘違いした四角い画面のことなのだろうか。

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