第46話 本島はひきこもり中
本島家は、江戸川区の豪農だが、その住まいは千代田区にある。ゾロゾロと7人を引き連れても仕方ないので、太一はまりえと優姫だけを同行させた。
「あれ、太一くん。久し振り」
「すみません、おばさん。連絡もなしに突然来てしまって」
「良いんだよ。さあ、上がって!」
太一を出迎えた本島のお母さんの期待をよそに、本島はひきこもったまま。太一が本島の部屋の前で声をかけても、出てくる気配は全くなかった。
「雄大、聞いてくれ。俺には、雄大の協力が必要なんだ!」
太一の声は、虚しく本島家の廊下に響くだけだった。本島にしたら、3年以上も放って置かれて、いまさら必要だといわれても、迷惑この上ないのだ。業を煮やしたまりえが、ドアをこじ開けて入ろうとした。それを既のところで優姫が止めに入った。この問題は、太一と本島の2人で解決しなければならないと思ったからだ。
「また一緒に、楽しく過ごしたいんだ。一緒に、この5年を取り戻そう!」
発光体質の太一が、その能力の新発見を切っ掛けに新たなスタートを切ろうというのに対して、本島には何の切っ掛けもない。だから、今まで通りひきこもったままでいたいのだ。太一が来たときは、本島にとっての立ち直る切っ掛けになるのではないかと1度は期待した本島の母親も、数分もしないうちに諦めムードになっていた。
「マスター、もう良い加減、帰ろーよー!」
まりえに言われて、ようやく諦めた太一は退散することにした。スゴスゴと退散する太一の後ろにいたまりえは、扉の鍵穴に向かって、思いっきり舌を出してあっかんべーをした。本島も鍵穴を覗いていたところだったので、扉の中で驚き慄いていたのだが、太一たちの誰1人としてそのことを知るべくもなかった。
その帰り道。電気街で太一にはなしかける男がいた。
「まいどーぅ! ボウズじゃねぇか。どうやら無事に、逃げる者を助けたようだな!」
「失敬な! ボウズじゃないですよ!」
男は、頭に宗匠頭巾を被った和装の中年男性で、白いクロスを掛けた机を出して客を募っている。まばらに生えた口ひげが印象的な、あのインチキ占い師だ。太一はまたしても立ち止まってしまう。
「だが、今度は男のことで悩んでるようだな」
太一は、隣にいた優姫と顔を見合わせてしまう。そのときまりえは、人混みを珍しそうに眺めていた。
「そうなんです。私の大切なマスターと大切な友達が、喧嘩みたいになってて!」
優姫はとっさに叫ぶように言った。
「マスターねぇ……。焼けるじゃねぇか! よしっ」
太一と優姫が恋人同士だと勘違いした占い師が、右手と左手の間を細い棒を何度も往復させる。相変わらずまりえは周囲を眺めているが、太一と優姫の目は細い棒に釘付けとなる。そのうちに棒の動きがなくなると、インチキ占い師は静かに言葉を発した。
「アッカンベエと、水槽……。」
それを聞いて、項垂れる太一。1度ならず2度までもインチキ占い師に期待した自分を呪った。よりによって、アッカンベエと水槽とは。気落ちしてしまったのだ。そのとき、それまでは静かにしていたまりえが、急にはしゃぎはじめた。
「マッ、マスター! まりえ、あの中に入りたい!」
まりえが指差したのは、ビルの壁面に設けられた大きなデジタルサイネージだった。太一も優姫も、あからさまにまりえを無視した。
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