第44話 禰宜を誰に頼もうか
「で、今日からは私たちは同じチームってところね」
「はい。7人で楽しくマスターを補佐していきましょうね」
あおいの呼びかけに対して、優姫が優姫らしく皆の意見をまとめてくれた。それを合図に、太一は次なる御神託を賜ったとこを巫女たちに告げた。
「今度は、禰宜を1人、集めないといけないんだけど、心当たりないかなぁ」
昨晩擬人化したばかりのまりえたちに心当たりがあるはずもなく、この問いかけは専らあおいやアイリスやあゆみに向けられていた。まりえには何故かそれが分かってしまい、自分では役に立たないことが気に食わなくて、邪魔をするのだった。
「えっ、ネギ? キャベツじゃダメなの!」
「あっ、ははは。まりえ、そんなことないけど……。」
「ちょっと。人間になったばかりのアンタじゃこのはなしは手に負えないでしょう」
太一が苦笑いするのを見て、あおいがまりえにピシャリと言う。すかさず優姫がまりえをフォローするが、まりえはブー垂れてほっぺを大きく膨らませる。
「ですが、急に人手が欲しいと言われても……。」
「国民は資産家が多くて誰も働きません!」
あゆみにもアイリスにも、これといって思い当たる人物はいなかった。頼みのあおいも、知り合いは多くてもみんな忙しくて、禰宜を引き受けてくれそうな人はいなかった。4人のはなしは、直ぐに暗礁に乗り上げてしまい、膠着状態となった。太一は、こうなったらあの人に頼むより他にはないだろうと思った。そんなときだった。
「マスター、良い人知ってるよ!」
まりえだった。優姫に構ってもらってしばらく黙ってはいたが、我慢しきれなくなり、太一に注目されたくて喋りはじめたと、太一を除くその場にいた誰もが思った。
「いいから、アンタは黙ってなさい」
問答無用のあおい。それに対して、太一はまりえの意見を聞いてみたいと思った。今、自分の頭の中にいる人物から逃れるためではなく、もしもまりえが同一人物を想起したのであれば、太一自身が意を決して向き合わなければならないと思ったからだ。
「まりえ、君の意見を聞かせてくれ」
「そんなの、簡単だよ」
えっへんとドヤ顔のまりえ。あおいはギッとそれを見る。アイリスとあゆみはおとなしくしている。太一の役に立てなかったのを恥じているのだ。まこととしいかは素知らぬ振り。そんな中、心配そうにまりえを見つめていたのが優姫。まりえが頭の中に浮かべた人物にピンッときたからだ。だが、その名を口にすることが、優姫には恐ろしいように感じた。太一がどう思うかを考えると、そんな顔つきにもなってしまう。
「雄大だよ」
雄大。モトジメともいう。太一の小学生の頃の大親友。まりえや優姫がその名を知っているのは、当時からよく遊びにきていたからだ。太一にすれば、かなりアッサリその名を聞いてしまった。
「まりえ、雄大さんは、今は……。」
「いや、優姫。良いんだよ。まりえの言う通りさ!」
まりえはドヤ顔からドヤドヤ顔に変わり、ラジオ体操でもしているように大きく胸を張った。プルンと胸が踊った。
「誰よ、ソレ?」
「どこかで聞いたことあるような、ないような……。」
「マスターの、同級生です……。」
優姫が、太一の様子を伺いながら恐る恐る重い口を開いた。大親友と言わずに同級生と控えめに言ったのは、まりえの口から雄大の名が出た際に、太一の鼻の穴がぷくりと膨らんだのを見たからだ。
「ま、うちは名前しか知らないから、古い友達っしょ!」
まことが、空気を壊さないように慎重に言った。
「で、どんな同級生なの?」
「ひきこもりだよ!」
あおいも腕を腰に当てながらも空気を尊重して尋ねたが、それをぶち壊したのがまりえだった。優姫は天を仰ぎ、額から瞼に手を乗せた。アイリスやあおいは白けた顔をした。ひきこもりの同級生が、禰宜として役に立つとは思えないのだ。やはり、まりえは注目されたくて言ったに過ぎないと感じたのだ。しいかは、まりえから本島のことを聞いたことがあった。そのはなしによると、本島は太一を庇ってイジメにあったという。しいかが鱒家にやってきた際、丁寧に水合わせをして太一がしいかを庇いイジメられないようにしてくれたことも思い出した。太一はしばらく俯いていたが顔を上げると、力強く言った。
「そうだ。まりえの言う通りだ。雄大にしか頼めない!」
こうして、禰宜は本島に頼むことになった。
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