第36話 さらされ

 太一がサラシを巻く動作には、無駄がなかった。何をするにしても手順を崩さず、さながら常に最強手を打ち続ける棋士のようだった。途中、特に序盤は何度か爆乳に触れなければならない瞬間がある。そのときは全国の男子高校生を代表していることを思い出して、丁寧に触れた。ぷにぃという柔らかさの攻撃により、幾許かのダメージを喰らうが耐えた。


 すると、中盤は音声による攻撃が待ち構えていた。きつく巻くためにはどうしても1周毎に力を込めなければならない。その度にアイリスのうんっ、ううんっという吐息が太一の鼓膜を震わせる。太一は、目の前の動作に集中することで、この局面もなんとか切り抜けた。


 そして終盤。最後にして最大の難関に差し掛かる。サラシを縛らなければならない。そのためには、サラシの先端を、巻いてきたサラシの布地と右のおっぱいと左のおっぱいが作る隙間に通さなくてはならない。その間、『ぷにぃ』と『ううんっ』という触覚と聴覚への同時攻撃に耐えなければならない! 最も強烈な視覚への攻撃を封じてはいるが、油断ならない瞬間だ。


 太一は、額の汗を拭い、もう1度、深呼吸した。


(よしっ!)


 太一は先端を隙間に通しはじめる。『ぷにぃ』と、それに連動した『ううんっ』の攻撃は凄まじい。アイリスはサラシを巻いて巫女装束に袖を通すのを楽しみにしている。そのためには太一にやり遂げてもらわなければならないということを、充分に理解している。だから、なるべく太一に負担がかからないように、アイリスなりに堪えている。


 これはまさに、太一とアイリスの共同作業だった。この点に関して太一の側にもう一段上の配慮があれば、太一の敗北はなかったのかもしれない。


 サラシの締め付けにより、緊張状態となったアイリス。その額や脇の下が急に汗ばむ。その汗がアイリスの肌に薄く付着した香水を活性化させる。フローラルな香り成分となって太一の鼻孔をくすぐる。太一は今、触覚と聴覚の他に嗅覚への攻撃を受け、逃げ場を失う。太一の目の前にいるのは、1国の姫で金髪ロングストレートの爆乳娘。全国の男子高校生の憧れの存在。それが、サラシを巻いただけで肌の多くを露出している。太一の脳内にエンドルフィンがほんの1粒合成されると、あとは堰を切ったように大量合成され、太一の脳内を駆け回る。


「き、気持ちイイー!」


 薄暗かった地下室が明るくなった。

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