第35話 さらし

「ははは、あの2人には無理なのじゃ」

「まない様には分かるんですか?」


 アイリスが巫女装束に着替える間、太一は神殿で待つことになった。2人の侍女はアイリスの着付けの手伝いをしている。だから太一はこうして光龍様と雑談をして待っていた。


「分かるのじゃ。あの2人には、いろいろと、無理なのじゃ」

「そうですか? 我儘なお姫様をあやしてきた実績がありますけど」

「巫女と侍女を一緒にしてはダメなのじゃ」

「そんなつもりはないんですけど……。」


 そこへ、2人の侍女が血相を変えて神殿にやって来た。


「ほれ見よ。土足で神殿に来たのじゃ」

「ははは。それは文化の違いですよ……。」


 光龍様と太一は念を通じて話しているから、ミアとキュアには聞こえない。それを良いことに光龍様は散々2人の悪念を太一に送った。太一は耳を覆いたくなるが、そんなことをしても念は通じてくるので、諦めるしかなかった。光龍様の送る念は、やれ鈍臭いだの、やれ不細工だの、やれ頭悪いだのという、ただの悪念ばかりだった。だが、太一にはミアもキュアも決して鈍臭いとも不細工とも頭悪いとも思えなかった。強いて言えば、間抜けなだけだ。


「鱒宮司。大変なことを思い出しました。私達、着物の着付けは無理なのです」

「今すぐアイリス様のお着替えを手伝ってください」


 太一がアイリスの着替えを手伝う。太一は生唾をごっくんと飲み込んだ。


「だから言うたのじゃ。あの2人には、いろいろと、無理なのじゃ」


 太一はアイリスの元へと向かう。


 社務所の地下室、金魚たちのいる部屋。アイリスが太一を待つ。巫女装束を着たいという憧れが、太一に裸体を晒すという恥ずかしさに勝る。普通はあり得ないことだが、アイリスの場合、過去に読んだ日本の小説にそんなシーンがあった気がするというだけで、その行為のハードルがグンと下がってしまう。


(巫女という職に就くからには、恥じらいを捨てなければならないわ)


 太一は、発光体質を除けば普通の男子高校生。その覚悟とは裏腹に、そっと部屋の扉を開ける。中は薄暗い。水槽のエアレーションのランプが点いているのと、階段の照明の光が扉から射し込んでいるだけ。上の電気は消されている。


 服の上からでも分かるほどの爆乳にサラシを巻くという任務にはロマンがある。淫らなこととは思わないが、一方で小っ恥ずかしい気持ちになるのも事実。太一には、その様子をまりえ達に見られるのがなんだか罪深いことのようにも感じた。そこで太一は水槽を黒い布で覆うことにした。アイリスが1人でやる方法を覚えるまでは、何度も呼ばれるだろう。太一は呼吸を整えた。


(光らなければ、俺の勝ち! いざ!)


 太一は意を決してアイリスに近付いていく。目が慣れてきてはじめて気付く。アイリスは、既に上半身裸だ。太一は、思い出作り派の膨らみをたしかめると、もう1度深呼吸した。


「じゃあ、はじめようか!」


 いよいよ、太一がアイリスにサラシを巻きはじめる。

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