第32話 国論

 アイリスは、はじめから我儘に育てられたわけではない。ジェスワッサー王国の女王は伝統的に歴代女王の5代孫までの王族から選ばれる。アイリスはちょうど5代孫のため、その娘には王位継承権がない崖っぷち王族。女王の子、孫といった本流に近い王女はチヤホヤされて育つが、5代孫となると先がないため社交界ではほとんど相手にされないのが現実だ。だから、アイリスも幼い頃は誰にも相手にされずに育った。だが、ジェスワッサー王国に伝わるある掟が、アイリスの運命を大きく動かすことになる。


『王位継承順位は、おっぱいのカップ数の大きさと若さで決められる』


 おっぱいが大きいほど順位が上がり、おっぱいが同じ大きさの場合は若い方が上位になる。アイリスの場合はKカップで15歳。おっぱいの大きさで、継承順位を争う他の王女を圧倒している。それでも暫定と付くのには理由がある。もし、女王が今日にも崩御された場合には、アイリスには継承権がない。若過ぎるのだ。ジェスワッサー王国は、16歳未満の女王の即位を認めていない。アイリスの場合は15歳になったばかりで、来年3月の誕生日を経て春分の日を迎えるまでは、継承権が正式には認められない。


 これだけならば、わざわざ暫定1位などとは呼ばないのだが、もう1つの掟が、アイリスにこのヘンテコな呼称を与えている。その掟とは、もしもKカップ以上の継嗣が現れた際は、現女王は1年以内に退位し、王位を継嗣王女に譲るというものだ。つまり、アイリスは来年3月からの1年以内に新女王となる可能性が、かなり高い。


 アイリスが爆乳になったのは14歳のとき。13歳の頃の身体検査ではCカップという、ジェスワッサー王国の王女としては平均的なサイズだった。それが14歳のときにはGカップへと急成長し年齢別のチャンピオンになった。その後も成長は止まらず、15歳になった今年の3月の検査で現在の大きさになった。『暫定1位継嗣王女アイリス』の誕生である。


 アイリスの周囲は急激に変化する。まずは、社交界の紳士が注目しはじめた。それまでは貧乏だった生活が一変し、多くのスポンサーに支えられて贅沢な暮らしをするようになった。アイリスが我儘になったのはこの頃からだ。



 さらに、爆乳王女の存在にジェスワッサー王国の国論は2つに割れた。即位前の王女に、思い出作りをさせるか、即刻帝王学を学ばせるか。2つの相反する教育方針に、両派の議論は大きな膨らみをみせた。さながら、アイリスの胸のようだった。


「女王様にならせられる前に、王女として他国を巡られるのがよろしい」


 思い出作り派の左大臣が言うと、負けじと帝王学を学ばせる派の右大臣が言った。


「いいや、女王となるまでに帝王学を学んでいただかないと!」


 両派の溝はどんどん深まっていった。さながら、アイリスの胸の谷間のようだった。


 4月になると、両派は軍事衝突寸前までになる。世にいう『Kカップ危機』である。この危機を国難とみた女王陛下がそれまでの沈黙を破り、アイリスの教育方針についての結論を公表した。


「正式に継嗣王女となるまでは思い出作り、それ以降は徹底した帝王学の修得。」


 これで戦争は回避され『暫定1位継嗣王女アイリス』は思い出作りに励むことになった。アイリスは元々オタクで、日本に多大な関心があった。だから、ここ秋葉原のど真ん中にある光龍大社を別荘として買収し、オタク文化を謳歌しようとしていた。

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