第28話 2人目の巫女
太一がなまだしあを連れて光龍大社に駆け戻ったときには、完全に息が上がっていた。なまだしあはというと、涼しい顔をしていた。体力差があまりにも大きいのだ。太一は帰宅部に所属しながらも、身体の鍛錬を怠ることはなかった。それが、いとも簡単に女の子に負けてしまった。
「なっさけないわね。ほんの少し、走っただけじゃないの」
なまだしあに煽られた太一は、元気を振り絞って笑顔を作った。
「ははは。全力で10分も走れば、普通はこうなるよ」
「何よ。私なんか、20分は追い回されていたのよ」
幼稚園児の頃はそれほどの差がなかった2人だが、この10年の歳月に、2人には天と地ほどの差が生まれていた。なまだしあが体力おばけなだけで、太一だって標準よりは余程体力があるのだが、現実に負けてしまい、太一はひどく落ち込んでしまう。そして太一は、光龍様が巫女を集めろといった背景には、もしかしたら心を閉ざして過ごしてきたこの5年間を取り戻せというメッセージが込められているのかもしれないと思った。だから、なまだしあに近付く努力をしてみようと思った。
「あおいちゃんは、随分と人気者になったよね」
今のなまだしあをあおいちゃんと呼ぶのは太一ぐらいしかいない。久し振りにそう呼ばれて、なまだしあは心地よさを感じ鼻を鳴らす。
「ふふん。批判してくれる人に出会えたからよ」
「大切にしてるんだ、その人のこと。偉い!」
「まぁね。でも、今は違うわ」
なまだしあが今は違うと言ったのは、ある思いがあったからだ。
「今度は私が、太一くんを立派に育ててあげるわ!」
「ははは、俺を、育てるって……。」
「そうよ。太一くんの悪いところを見つけたら、ビシッと言うからね!」
なまだしあは、左手を腰に当て、右手の人差し指を太一の方に突き刺しながら言った。その姿はなまだしあが2年前の夏休みに演じた『レースプリンセス、可憐様♡』の可憐そのものだった。太一は右手を頭の後ろに当てて言った。
「ははは。それは心強い。よろしく」
「えぇ、まっかせなさい!」
「ねぇ、あおいちゃん。だったらウチで巫女やらない?」
「はいっ、喜んで!」
こうして、なまだしあこと水掛あおいは、光龍大社の巫女となった。
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